1976年刊行の不朽の名著『知的生活の方法』の著者・渡部昇一氏。現在も着々と版を重ねるこのロングセラーは、当時まだ一般的でなかった「書斎」を自宅に構える人が増えるなど、広く日本人のライフスタイルに影響を与えたが、その渡部氏が昨年、『知的余生の方法』(新潮新書)を記した。
かつて知的生活者になりたくば〈知的正直〉であれと説いた渡部氏は、本書でも尽(ことごと)く正直だ。例えば〈いのち長ければ恥多し〉とは吉田兼好『徒然草』の言葉だが、昨年傘寿(80歳)を迎えた渡部氏は〈恥など多くてもかまわないから、95歳以上は生きたい〉と語り、余生についてこう語る。
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いろんな老碩学に会った私の結論で、大まかには90を越えてくると〈生死の欲〉もなくなる。例えば字書三部作の白川静先生(享年96)など、明日死んでも今晩寝た延長くらいの未練のなさで晩年も淡々と知的生活を送られ、これはもう高僧の悟りの域です。
人生50年の昔は修行でも積まなきゃ悟りは開けなかった。でも今は僕ら凡人でも長生きさえすれば、聖書もお経もなしに死の恐怖を脱せるかもしれない。ただそこまで持たせるのに何もやりたいことがないのはマズい。だから壮にして学ぶ習慣が大事だと、僕は30~50代の人に特にいいたい。
※週刊ポスト2011年1月28日号