NHK会長人事が大揺れに揺れた。1月11日、安西祐一郎・前慶應義塾長がNHK次期会長就任を拒否した経緯について、翌日の新聞各紙は、軒並み「安西擁護」だった。会長交際費や都内の居宅を条件にしたなどの「風評」が、NHK内部からスポーツ紙や週刊誌を通じて広がり、本人は否定したのに就任辞退に追い込まれた。
まるで安西氏は根も葉もない中傷を受けた完全な被害者で、スポーツ紙や週刊誌が「安西潰し」の陰謀に加担したかのような論調だが、果たして実態はどうなのか。経済ジャーナリストの町田徹氏は語る。
「安西氏については、条件の話だけでなく、慶應義塾長時代の財テク失敗など、多くの関係者から問題点が指摘されていました。判断が遅すぎたが、要請撤回は仕方ないのではないか。そもそも、安西氏擁立には日本テレビの氏家齋一郎会長の後押しがあり、読売新聞政治部出身の北原健児・NHK経営委員が支持したといわれています。ただでさえ外部からの会長就任に不満があるNHK内部から反発が起きたのも当然です」
それが、スポーツ紙や週刊誌による安西氏への批判につながった。さらに事態を複雑にしたのは、NHKを所管する総務省、片山善博大臣の意向である。
「総務官僚が作成した候補者リストを片山大臣に見せたところ、大臣も慶應の教授をやっていた(現在は客員教授)関係で安西氏を推したのです」(町田氏)
お墨付きを与えた会長候補が潰されたのだから、総務省は面子丸つぶれ。それが新聞の「風評」報道に結びついたと見るのは、ジャーナリストの上杉隆氏だ。
「総務省には新聞・テレビの波取り記者(電波行政を担当し“電波を取る”記者)がいます。だから新聞は安西氏を擁護するような論調になり、結果的に記者クラブvs非記者クラブの対立構図となったのです」
※週刊ポスト2011年1月28日号