「戦争だ!」と叫ぶ時の北朝鮮のホンネはどこにあるのか。繰り返される挑発に隠された「真の狙い」を産経新聞ソウル支局長の黒田勝弘氏が解説する。
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北朝鮮による延坪島砲撃事件の後、新しく任命された金寛鎮国防相は国会聴聞会で「今度また北が無差別攻撃してくれば、空軍機も動員し強力に反撃する!」と決意を表明した。
これに対し、議員からは「そんなことをすれば衝突が拡大し全面戦になるのではないか?」と疑問が出されていた。当然の疑問だ。世論が怒りと不満で沸騰し、報復論が高まるなか、一方でよく聞かれる議論だ。
これに対し金国防相は「北の経済事情や後継問題など内部の不安要素を考えれば、北に全面戦の余裕はない」と答えている。北朝鮮は国営宣伝メディアを通じ「全面戦も辞さず!」と盛んに緊張をあおっている。モノ・カネがない時は、言葉がいちばん安上がりの武器になる。言葉で韓国や国際社会を脅かしているのだ。しかし戦争、戦争と言っている時は、戦争をしたくない時だ。やる時は黙ってやる。
北の金正日政権は今、戦争すれば体制も国もつぶれることをよく知っている。
金正日国防委員長(朝鮮人民軍最高司令官)の唯一の戦争体験は、まだ10歳にもなっていなかった1950年の朝鮮戦争の際、反撃の米韓軍に追い詰められ、中国に避難したことだ。先の訪中ではその「史跡」を再訪していたが、そんな幼児体験からも全面戦は怖い。
北朝鮮は「戦争だ!」と言えば、韓国をはじめ国際社会が必ず「だから平和を!」と言い出すと思っている。したがって「戦争!」を叫んでいる時のホンネは、実は「戦争回避」なのだ。
※SAPIO2011年1月26日号