脳科学者の茂木健一郎氏が考える2010年最大の出来事は内部告発サイト「ウィキリークス」だったという。「ウィキリークス」は世界に何をもたらしたのか。
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ウィキリークスの衝撃とは、何だったのか? 私なりに考えれば、それは「国家」というものが成り立つ極めて危うい基盤を明らかにした点にあると思う。ウィキリークスの活動を通して、国家が、もともと「疑わしい存在」であることが露呈してしまったのである。
国家がどれほど強大なものであっても、「民主主義」でありさえすれば、十分なコントロールが効く。私たちはそのように考えてきた。しかし、ウィキリークスが明らかにした「公電」の数々は、国家というものが、看過できない「暗部」を持っていることを明らかにしてしまった。
核の開発をしているからと、先制攻撃を求める第三国の政府関係者。他国の首脳に対する、容赦ない論評。エゴと策略が渦巻く国際政治の舞台に、民主主義も理想もないのだということを、ウィキリークスは明らかにした。
もちろん、無政府状態は人類の悲劇である。私たちは、必要悪として国家を必要とし続けるのであろう。それでも、その国家というものを無条件で「善」だと考えてはいけないということを、ウィキリークスは教えてくれた。
これまでにない新しい出来事に出会うと、脳の回路に「傷」ができる。その「傷」が癒える過程で、私たちは新しい世界観を獲得していく。ウィキリークスが切り開いた世界像の全貌が明らかになるのは、ずっと先のことだろう。
※週刊ポスト2011年1月28日号