「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃダメなんでしょうか」
一昨年、事業仕分けの際に蓮舫参議院議員がいった、この言葉。これに対し、このほど『はやぶさ、そうまでして君は』〈宝島社〉を上梓した小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネジャー・川口淳一郎さんが穏やかに口を開いた。
「世界1位とか世界2位といういい方は、同じルールのもとに競技会をやって順位をつけるときに使いますよね。でも、1とか2ではなく、世界初ということが大事なんだと思うんです。天井がなく手本がない分だけ、やりがいのある仕事。我々のやっていることは人類初なんだという思いでやったのが“はやぶさ”のプロジェクトでした」
地球と小惑星イトカワを往復飛行し、地球の成り立ちを解き明かすサンプル採取という、NASAもなしえていない世界初のミッションをなし遂げた“はやぶさ”。しかし、イトカワに着陸する際に起きたトラブルで通信途絶。さらに、地球に帰還する前に4基のイオンエンジンが4基とも寿命を迎えて、人間でいえば心停止の状態になるなど、多くの危機に直面した。
通信がつながらない不安なとき、川口さんが赴いたのは、飛行機で旅する人が安全祈願する、東京の「飛不動」。「無事帰還」を祈願した。イオンエンジン復活へは、エンジンの中和器がカギだったが、そのときには岡山にある「中和神社」に藁をもすがる思いで祈願に訪れている。クールな科学者でも、神頼み。どんなことをしてでも“はやぶさ”を地球に返したかったのだという。
そして、こうした危機を乗り越え、満身創痍でその旅を終えた姿は、日本中の多くの人々の感動を呼んだのだった。
※女性セブン2011年2月3日号