『新しい富の作り方』で注目される経済予測のエキスパート、菅下清廣氏が、菅政権が突き進む大増税路線の怖さに警鐘を鳴らす。
* * *
日本は今、経済成長時代に築いた金融資産、不動産資産を食いつぶしながら、かろうじて生きていますが、もうそれも限界にきている。かつて日本が強かった時代には、富の階層別分布はラグビーボールのような形でした。つまり、ぶ厚い中産階級があり、金持ちや貧困層はそれほど多くなかった。それが今はひょうたん型になっていて、一部の資産家層が生まれたかわりに、多くの中産階級がずるずると下に下がって貧困層に落ちてしまいました。
そこに人口減少が追い討ちをかけています。国を支える消費の担い手、生産の担い手がどんどん減っていけば、まずは家計部門が崩壊し、それにつれて社会保障費や医療費が急上昇していくでしょう。その結果、国が向かうのは大増税社会しかありません。すでに菅政権はそこに目を向けているわけです。
しかし、これはうまくいきません。増税の標的になる一部の資産家層は、2つの選択肢を選びます。1つは「稼いでも無意味だ」と労働意欲を失い、そこそこの所得や生活水準に落ちてしまう。これは1960年代から1970年代にかけてイギリスを長期停滞させた有名な「英国病」と同じ症状です。もう1つの選択は、増税の及ばない外国に逃げることです。富も能力もある人たちですから、それもできます。企業にも同じ現象が起きるでしょう。富や人材がシンガポールなど税負担の少ない国に流出するのです。
こういう間違った増税路線に進むと、世界の歴史からみて独裁政治や強権政治を招くおそれが強い。一握りの権力層が国民を支配し、国民には知識も情報も能力も与えない国を目指すのです。その政治が50年、100年と続いた後に、最後はクーデターが起きるでしょう。このまま増税路線を強行すれば、日本がチュニジアのような国民不在の国になってしまう可能性さえある。
むしろ日本は、景気回復、経済成長によってすべての国民が高度な教育を受け、高い労働生産性を持つ国を目指すべきで、今のような大増税シフト内閣では、ますますデフレは深刻化し、若者にとって夢のない社会になってしまいます。
※週刊ポスト2011年2月4日号