竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は、「『閉店セール』を謳った店がずっと営業しているが、誇大広告ではないか」と、以下のような質問が寄せられた。
【質問】
衣料品の店が、店頭に「閉店セール」という貼り紙をしていたので、安いだろうと思って買い物をしました。ところが、翌週も翌々週も「閉店セール」と貼り出されたままでした。その後、貼り紙はなくなりましたが店は相変わらず営業しており、だまされた思いです。これは誇大広告になりませんか。
【回答】
実際に商品と値札を見比べて買った以上、文句はいえないでしょう。物を買う場合、重要なことは、商品の種類と品質、それにその代価です。もちろん、売主が売買できる権限があることが前提です。それ以外の点は付随的なことです。
「閉店だから安くなっているはず。本当はもっと高い値段が付けられている商品だ」とあなたが思っても、手に取って見た商品の種類や品質には変わりはありません。自分の判断で、その品物には値札以上の価値があると思ったのであり、そこには誤解はありません。
もっとも、素人には品質の評価がむずかしい特殊な商品の場合であれば、「品質相応の価格に比べると高額だが、閉店セールのため安くしている」と説明して売りつけるような事例であれば、品質を価格相当の高級なものと誤解させたことになり、だましたことになるかもしれません。しかし、あなたの場合は「衣料品」ですから品質を誤解するようなことでもありません。従ってだまされたことにはなりません。
ところで消費者契約法では、事業者が消費者との取引で重要事項について事実と違うことを告げ、消費者が真実であると誤認した場合には、契約の取り消しができるとしています。しかし「重要事項」とは、商品の質、用途その他の内容、対価、その他の取引条件とされており、閉店セールスは理由になりません。
また、誇大広告についてですが、不当景品類及び不当表示防止法の第4条で商品の品質、規格あるいは価格などで実際より著しく有利に広告する場合などを、不当表示として規制しています。しかし、閉店広告はそれにも当たらず、規制の対象外です。従って誇大広告ともいえません。とはいえ、このような閉店セールスはよくある商法です。注意してください。
■プロフィール
竹下正己・1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2011年2月4日号