新興宗教を描いた『砂の王国』で第144回直木賞候補に選ばれた荻原浩氏。荻原氏が「新興宗教の教祖像」についてこう語る。
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「僕が新興宗教を始めるなら、まず教祖に求めるのが圧倒的ルックスと声ですね。容姿に好き嫌いはあっても声には当たり外れがなく、同じ言葉でも説得力が違う。何%かの人はケッと不快感を示すイイ言葉でも、残りのケッと思わない人を想定して次の言葉を畳みかけていけば何%かの人間は最後までついてくる。
そこは確率の問題で、耳触りがよく、誰もが否定できない〈きれいな言葉〉を、まして完璧な容姿の人間が語れば、中身は空っぽでも人の心を掴む確率は上がる。逆に空虚な言葉だからこそ人々がそれを勝手に解釈し、勝手にハマる宗教的構図が生まれるのかもしれない。ケッとはいいにくい言葉ほど逆に危うく、言葉って怖いなあと、僕は小説を書きながら思うんです」
※週刊ポスト2011年2月4日号