おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、アメリカ人の妻たちに、「家族の間での『アイ・ラブ・ユー』が、私はどうもダメなのよ」とこぼしたら、逆に真剣な顔で質問された。「アヤコ。あなた、まさかと思うけど夫にアイ・ラブ・ユーっていわないの?」
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「そりゃね。2人きりのときはいうわよ(ただし、遠い昔の話だけどね~)。でも息子の前ではいったことないわ。というか、息子にだっていわないなぁ。『アイ・ラブ・ユー』なんていったら、息子も気持ち悪がるし。そもそも、息子の前で夫とハグだのキスだのなんてのは一度もないねえ」
その瞬間、テーブルを囲んだ一同はシーン。
ここに、別の日本人駐在妻が「私なんか子どもの前でなくても、夫とハグやキスなんて、この10年してないわ~」と、衝撃の告白をぶちかましたもんだから、もう大変!
アメリカ人妻たちから、「げげげ」だの「ヒョエエエ」だの驚きの声が上がった。見れば、誰もがのけぞってるぞ。あれれ、私たち、何か変なこといったかしらん?
女友達のイーディスが深刻そうな顔で、耳打ちしてくれた。「アメリカだったら『夫婦でカウンセリングを受けなさい』ってケースよ」。そ、そんな~。日本じゃフツーなのに。
ところが、これには後日談がある。イーディスの夫がひざの手術で入院した。痛みで不安感を募らせた夫は、一瞬でも妻がそばにいないと大騒ぎ。イーディスは24時間、病院で介護する羽目に。
見舞いに行ったら、疲れきった表情のイーディスが私にいった。「日本人女性は正しかったわ。『亭主元気で留守がいい』って真理よね。このままじゃ、ストレスでこっちがやられそう。夫が退院したら私、女友達としばらく旅行に出るわ」。思わず漏らしちゃったホンネ、って感じ。
もしかして、アメリカ人の夫婦がやたらにハグやキスするのって、人前では「愛し合う夫婦」や「幸せな家族」を演出しなければならない、っていうプレッシャーが強いからなのかも。「亭主とこの10年、手も握ってないわ」と、ゲラゲラ笑い飛ばせる日本人妻のほうが、案外シアワセだったりして……?
※週刊ポスト2011年2月4日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第130回より抜粋)