この国では長らく、新聞・テレビという一部のメディアが、政府など公的機関からの情報を独占しコントロールしてきた。「記者クラブ問題」――これを根本から覆す一手が打たれた。
仕掛け人は、政権から「排除」された小沢一郎元民主党代表と、記者クラブメディアから「排除」されたジャーナリスト・上杉隆氏。“嫌われ者”同士の化学反応は、既得権益をすべて壊す可能性を秘めている。
上杉氏らが訴えてきた「記者会見オープン化」とは、これまで記者クラブ以外の参加が許されてこなかった政府の公的会見に、フリーやネット、雑誌などの記者たちが参加できるようにする運動である。それを菅政権が「排除」を唱える小沢氏の会見からスタートするというのだから、官邸も穏やかではない。フリーの記者らにとっても小沢氏にとっても、記者クラブメディアと菅政権の双方を「敵」に回すことになるのではないか。
それでも踏み出した意図を、上杉氏はこう説明する。
「長年、記者会見のオープン化を訴え交渉を重ねてきましたが、記者クラブ側は既得権益を守ることに終始し、一向に開放しようとしなかった。そこでやむを得ず、これまで会見取材ができなかったフリーやネットなどの記者が誰でも参加できる、公平で開かれた言論の場を自分たちで作ることにしたんです。
新聞・テレビの記者たちも、個人としての参加なら認めますが、申し訳ないけど優先順位は一番下。これまで記者クラブに差別されてきた順に、まずフリーやネット、次に雑誌や海外メディアというふうに広げていくつもりです。むしろ記者クラブは、これを機に公的会見をすべて開放すればいいんです」
確かに、政権交代から1年以上経つにもかかわらず、首相官邸での官房長官会見や首相のぶら下がり会見などは、いまだに記者クラブしか参加が許されていない。枝野幸男・官房長官は1月14日、「記者会見のオープン化を進めたい」と表明したが、「菅政権になってから記者クラブ問題は後退している」(上杉氏)という。だからこその「実力行使」というわけだ。
その仕掛けに乗ったのが小沢一郎というのが興味深い。なぜなら小沢氏こそ、「記者会見オープン化」を民主党政権の事実上の「公約」とした張本人だからだ。小沢氏は民主党代表を務めていた2009年3月、上杉氏の「政権交代後の記者会見オープン化」に関する質問に対し、「どなたでも会見においでくださいということを申し上げております。その考えは変わりません」と答えていた。
※週刊ポスト2011年2月11日号