各国の次の政治リーダーが丸ごと入れ替わる可能性がある「2012年問題」。その最初の選挙となるのが来年3月のロシア大統領選だ。ロシアの実情を知悉する、元外務省主任分析官の佐藤優氏は2012年問題を前に、外務省の決定的な問題点を指摘する。
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2012年3月にロシア大統領選挙が予定されている。現状では、メドベージェフ大統領、プーチン首相のいずれかが出馬すると見られている。筆者はときどきロシアに関心を持つ国会議員から「メドベージェフ大統領とプーチン首相の関係はどうなっているのですか。激しい権力闘争が行なわれているのではないでしょうか。ロシア国内のナショナリズムカードを使うためにメドベージェフ大統領が国後島を訪問したのでしょう。大統領がこれだけ焦っているところを見ると、実権はプーチンが握っていると見るのが妥当でしょうか」という質問を受ける。判で押したように同じ内容なので、こういう質問に対して筆者はこう尋ね返すことにしている。
「あなたはどうしてそういう風に考えるのですか。率直に言って、ロシアの内在的論理に通暁していない頓珍漢な見方です。あなたがこんな変なことを考え出すはずがない。誰があなたにいい加減な説明をしたのですか。メドベージェフ大統領が国後島を訪問したのは2010年11月1日です。大統領選挙は、2012年3月です。1年4か月も前に選挙のためのパフォーマンスをして、果たして効果があがると思いますか」
そうすると相手の国会議員から、「効果なんてないと思います。実は私も外務省の説明を聞いて、『ちょっと違うんじゃないか』と思いました。しかし、外務省のロシア専門家が言うことですから、信じてしまいそうになりました。もっとも外務省はメドベージェフ大統領の北方領土訪問はないと断言して、予測を完全に外したので、不安になって佐藤さんの見方を尋ねたのです」という返答がくる。
外務省のロシア専門家の能力低下が著しい。その最大の原因はロシア語力の低下だ。ロシア語の能力が基準に達していないと新聞、雑誌、クレムリン(大統領府)や政府のHP に掲載される膨大な量の公文書を把握することができない。それだから、ロシアが送るシグナルを見落としたり、読み間違えたりするのである。
※SAPIO2011年2月9・16日号