【書評】『FREE TOKYO フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100』(ジョー横溝著/ブルース・インターアクションズ/1680円)
評者:鴻巣友季子(翻訳家)
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ウェブ市場でこのところ話題の「フリー経済」。今まで当然お金をとっていた、本、音楽、アートなどを含む有形無形の「コンテンツ」をタダで提供し、そこから新たな利益を生みだそうという戦略だ。
さて、本書『FREE TOKYO』も、物価の高い東京にあって、無料で使える・遊べるスポットを紹介するガイドブック。少なくとも、そうした体裁はとっている。しかしタダによって、消費者がいかに得をするか、提供側がそこからいかに儲けを出すか、という世知辛いイメージとは対極にあるだろう。
例えば、「東京藝術大学奏楽堂モーニングコンサート」は、藝大成績優秀者がただ一人プロオーケストラに交じって演奏する「練習の場」であり、それを無料公開している。才能ある新人発掘に通う目利きも多い。
新橋の「合資会社堀商店 鍵の資料室」には、古今東西の鍵の現物とその資料が揃う。アフリカの木製の鍵を見た著者は、日本の鍵の精密さとは違う威厳をそこに見いだす。「勝鬨橋橋脚内見学ツアー」は、海が重要な交通路であった頃の東京の姿を甦らせるし、小平市の「ふれあい下水道館」では、地下5階を走る下水道に間近にふれ(正直かなり臭い)、管内の修繕保全を行う「シャドウマン」たちの活動を知ることで、普段は見えない街の地下の顔が見えてくる。
他にも、三鷹市にある「星と森と絵本の家」、和菓子の「虎屋ギャラリー」、地元商店街主催の「目黒のさんま祭り」、「第一硝子株式会社 工場見学」、「池上本門寺人生相談」などなど、国営・公営のスポットは多いが、企業の運営する施設も内容に手を抜かず、真摯な使命感と志が伝わってくる。
本書の100スポットを著者はこう言う。「〈FREE〉を無料ではなくプライスレスと訳すと、(その意味が)鮮明になると思う」。お金では計れない東京。国会図書館国際子ども図書館や、メゾンエルメスなど、建築物自体の価値や面白さを詳述した項目もあり、新古が混交するメトロポリタンの未知の相貌が垣間見え、肩肘はらない一つの都市論となり得ている。
※週刊ポスト2011年2月11日号