国内

大前氏 日本の「医療観光」戦略は掛け声倒れに終わると断言

 アジアでメディカル・ツーリズム(医療観光)の市場が急速に拡大している。医療サービスを目的にタイやインドなどを訪れる人々の数が増加する中、日本政府も昨年6月に発表した新成長戦略の柱の一つにこれを掲げる。実際、日本政策投資銀行は2020年時点での潜在需要を約43万人と見積もっている。だが、大前研一氏は、これは限りなく“幻想”に近いと指摘する。

 * * *
 日本がメディカル・ツーリズムの受け皿となることが困難な理由は、患者の「送り手」と「受け手」の両サイドに存在する。

 日本の医療費は高額だ。日本人は健康保険制度によって本人負担の割合が低いためその認識が乏しいが、実は海外に比べると極めて高い。オーストラリアの保険適用前の初診料は、どこの病院でも診察・検査・治療が全部パッケージになって299豪ドル(約2万5000円)ポッキリの明朗会計となっている。

 日本で治療を受けた外国人が医療費全額を個人または保険会社が負担するとなれば、アメリカ人でも自分の国で治療を受けたほうが安くつくということになり、医療保険会社は日本での治療を認めないだろう。

 日本では「患者は顧客」という発想はまるでない。長い待ち時間や名前や住所を何度も書かせることは当たり前だ。医師の権限が強大で、医療の質やサービスが問われることもない。
 
 セカンド・オピニオン、サード・オピニオンを取ることは歓迎されず、一部の例外を除いて事実上、カルテや検査結果は患者ではなく病院のものになっている。すべての選択権は患者より医師や病院のほうにある、といっても過言ではない。

 しかも、英語などの外国語ができる医師や看護師がいる病院、「患者は顧客」という考え方に慣れている海外の富裕層のニーズを満たせるような個室などの施設やサービスを提供できる病院となったら、果たしてどれだけあるのか。

 そもそも日本の大学病院や独立行政法人の総合病院は、日本人の患者だけで大混雑しているのが現状だ。このうえメディカル・ツーリズムに対応して外国人患者を受け入れるだけの物理的なキャパシティ、人的なキャパシティがあるとは到底思えない。
 
 こうして検証してみれば、メディカル・ツーリズムが掛け声倒れに終わるのは目に見えている。

※週刊ポスト2011年2月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン