おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、米国在住の日本人駐在員たちの過激な日常を報告する。
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海外駐在員にとって一番気苦労の多い“仕事”とは、何だろう。現地企業との綱引きか、はたまた、異文化や言葉の壁との戦いか? いえいえ、多くの駐在員はこう口をそろえる。「そりゃ、日本からエライ人がやってきた時のお世話係でしょ」。いわゆる「アテンド」ってやつだ。
「本社から○○社長が」とか「東京から△△議員が」となれば、空港でのお出迎えからお見送りまで、何日間もたっぷりお世話することになる。この接待の出来不出来が、駐在員の本社での評価を左右しかねないというから、大変だ。
この前、ある駐在員の「歩幅伝説」なる逸話を聞いた。東京から視察に来るという国会議員の歩幅を、事前に日本の情報筋(?)から入手し、ホテルの部屋からエレベーターまで何歩、エレベーターを降りてから玄関の車寄せまで何歩、などと実際に自分で何度も歩いて歩数を確認。歩数から所要時間を割り出し、水も漏らさぬスケジュールを立てた駐在員がいたそうな。
周囲の迷惑も顧みず、ホテルのエレベーターを1基、議員のために何分間も止め、絶妙のタイミングで車寄せにお迎えの車を登場させたというから、拍手喝采?
その話を聞いた時は、「こんなバカな接待はするなよ」という類の与太話かと思ったら、その会社では、武勇伝として語り継がれてるんだって!
※週刊ポスト2011年2月11日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第131回より抜粋)