1989年、個性派俳優・松田優作が享年39という若さで急逝した。死因は膀胱がんだった。しかし、大阪医科大学泌尿器科の東治人准教授は「この治療法が確立し、施療できていれば、完治した確率は高いでしょう」と語る。
尿路(腎盂・尿管・膀胱)がんの中で、死亡数7割以上、罹患率も半数を占める膀胱がん。60歳代から罹患率が増加するが、男性は女性の約4倍も罹患率が高い(国立がんセンター2006年統計)。悪性度が高く、進行した場合は手のうちようがなくなりがちだった膀胱がんに対し、大阪医科大学の東治人准教授チームが“膀胱を取らずに、9割以上の確率で根治する”画期的な治療法を開発し、成果を上げている。その治療法が「大阪医科大式膀胱温存療法」だ。
大阪医科大式膀胱温存療法のポイントは3つ
・膀胱につながる動脈の血流を遮断し、膀胱内だけに抗がん剤を循環させる
・膀胱から出る静脈に透析を行い、抗がん剤を除去する(※)
・上記と同時に膀胱に放射線を照射し、がんを徹底的に死滅させる
※ただし、患者に体力がある場合は透析を行なわず、抗がん剤を全身に循環させ、がんの転移を未然に防ぐという措置をとることも。高濃度の抗がん剤も、全身に回れば濃度が下がるため、それほど重い副作用は出ない。
治療法が誕生して以来15年間で120例以上の患者がこの治療を受け、がんが膀胱内に留まっている患者の90%以上が根治。現在では、放射線科の鳴海善文教授、山本和宏講師、血液浄化センターの井上徹准教授らとこの治療を行っている。初回治療で根治した患者では、施療から14年を経て、現在までほとんど再発、転移は見られない。この治療を受けた患者の最高齢は98歳。この治療は短時間で済むので、体力の乏しい高齢者にも適用できる。
※週刊ポスト2011年2月11日号