電子書籍の利便性について、「日本の白熱教室」で激論が交わされた。明治大学国際日本学部の木曜3限、小笠原泰教授の講義「知財文化マネジメント」での様子を報告する。
* * *
冒頭、小笠原泰教授がこう問いかける。
「今日の講義では電子書籍のインパクトとその是非について、紙の書籍との比較の観点から深く考えてほしい。電子書籍は書籍市場のビジネス構造だけでなく、社会や文化まで変えてしまうほどのインパクトがあるのかどうか。まず聞いてみよう。iPadを持っている人はいますか」
受講者は約150人。3年生が中心だ。1人が挙手する。
小笠原「1人だけ? iPadで本は読んだの?」
男子学生A「いいえ。読むのはニュースなどです」
小笠原「じゃあ、スマートフォンで本を読んでいる人はいますか? いないんだ。2010年は電子書籍元年と言われているけれど、消費者の反応は今一歩かもしれないね。それじゃ書籍の電子化が進んだとき、読者には影響があるのだろうか。どう思う?」
前列の学生が答える。
男子学生B「検索などがしやすくなる。本の中身、本文も検索できるようになる」
小笠原「新たな利便性という機能追加ということだね。ここに新規参入の機会があるかもしれない」
男子学生C「参考文献が絶版になっていて入手に苦労する、ということもなくなる」
小笠原「紙媒体だと在庫管理の費用が大きいので、断裁してしまうけど、電子書籍だとほとんどお金はかからない。売れないけど価値がある本に対するアクセスを高めるという意味で、社会的意義があるね」
女子学生D「Aという本の中で別の本Bの内容について触れていた場合、本Aを読んでいる最中に、本Bの参照箇所を部分買いして読んで、本Aに戻るという読み方をするようになるのかな」
女子学生E「でも、どんどんリンクを辿って読むようになると、1冊をじっくり読むということをしなくなりそう」
男子学生F「著者が本を出版した後、書き直しとか追加をしたくなった場合も、しやすくなると思う」
女子学生G「でも上書き更新されたら、読者は混乱する」
女子学生H「お金がないと電子書籍用の端末が買えなくて、だから本も買えないということにならないでしょうか」
男子学生I「紙の本を読む場合と機器で読む場合では、脳の使い方が変わるのでは」
小笠原氏は教室内を縦横に移動しながら、学生にマイクを向ける。学生の発言が途切れることはない。
※SAPIO2011年2月9・16日号