医療・介護の中枢にいる人々は、社会保障制度をどう変えようと考えているのか。実は、すでに改革の素案がある。とある厚労省幹部が語る。
「医療・介護の将来試算は福田内閣の社会保障国民会議で行なっている。担当したのは香取さん(香取照幸・厚労省政策統括官)で、彼の頭の中には必要な消費税の税率まですべて入っている。この数字を使えば自民党は反対しにくい。それをもとに昨年11月末、社会保障審議会の介護保険部会で制度見直しの具体的な方向づけをする意見書を作成した」
介護保険制度は2000年にスタートしたが、介護サービスを受けている高齢者は当初の149万人から2009年度は384万人に増加し、介護費用も3.2兆円から7.9兆円と2倍以上にハネ上がった。
社会保障国民会議の最終報告によると、制度が現状維持なら介護サービス費用はさらに増えて2025年には19兆~24兆円に達し、医療費(67兆円)を合わせると消費税で賄うには3~4%の税率引き上げが必要と試算されている。途中の15年時点では医療・介護部門は消費税増税のうち1%分をもらえばしのげるという試算だ。
増税の是非はともかく、消費税1%分を介護保険に回せばサービスが充実するという改革ならまだわかる。ところが、社会保障審議会の意見書では、制度の充実どころか、国民に消費税増税を強いたうえで、介護保険料も増やし、介護が必要な高齢者の切り捨て方針まで議論されている。改悪の第一は、施設やサービス利用料金の値上げだ。現在は介護サービスの自己負担は1割だが、意見書では、〈(介護保険の)利用者負担を例えば2割に引き上げることを検討すべきである〉と、負担を倍にするよう求めている。
さらにひどいのは介護サービスの打ち切り計画だ。介護保険制度で定められた要介護認定は、寝たきり状態の「要介護5」から、歩行が不安定でトイレや入浴に一部介助が必要な「要介護1」まで5段階に分かれ、それより軽い「要支援」が2段階ある。報告書では、今後は介護給付が増えるから、要支援者や軽い要介護者への給付については、〈介護保険給付の対象外とすること〉などの方策を考えるべきであるとしている。
さらに、〈保険料納付者年齢(現在は40歳以上)引き下げ〉の意見も盛り込まれている。厚労省は若者にも加入させて保険料収入を増やすのが悲願なのだ。国民にすれば、消費税が上がり、介護の保険料負担も増やされるうえ、「杖で歩ければ介護の対象外」と給付条件まで厳しくされる。もはやこれでは介護保険の意義はないが、役人の天下り利権にとってはそれで十分な「改革」なのだ。
※週刊ポスト2011年2月18日号