金正日が急死する事態となった場合、現在の北朝鮮の権力中枢は大きく二つのグループに分かれると予想される。一つは、世襲後継者である三男の金正恩と、それを補佐する妹の金慶喜(党軽工業部長)、人民軍の李英鎬総参謀長を中心とする「先軍政治派」(現状維持派)である。
もう一つは、困窮する現状を打破すべく中国式の経済改革を求める「改革・開放派」と呼ぶべき党幹部グループである。そして鍵を握る中国は、どちらを支持するのか。ジャーナリストの惠谷治氏が分析する。
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「先軍政治派」と「改革・開放派」の対立という権力内部の混乱に乗じて、住民たちが鬱積した不満を爆発させる可能性は小さくない。もしそうした反乱が全国へと発展した場合、それを鎮圧する任務を担うのは、人民保安部である。傘下の人民警備隊は国内の治安警備にあたるとともに国境や海岸、鉄道、さらには強制収容所の警備なども担当する治安機関だが、その対処の成否によっては、国内が大混乱に陥る可能性もある。
住民暴動の標的となる可能性があるのは、秘密警察(国家安全保衛部)や、鉄道・道路などの交通インフラ、アンテナ施設の通信インフラなどだろう。さらにはヤミ市などでの略奪・違法行為も頻発するかもしれない。
そうした北朝鮮の混乱を最も恐れているのは中国である。その中国は、先軍政治派ではなく、改革・開放派を支持するに違いない。そのため、北朝鮮が大混乱に陥った場合には、中国は、その筆頭格とも言える張成沢(金慶喜の夫で国防委員会副委員長)を押し立てて、改革・開放派政権を樹立させようと有形無形の支援を行なうのではなかろうか。
結果的に、中国に支援された改革・開放派によるクーデターが起きる可能性もある。その場合は、いわゆる二・二六事件のような青年将校らによる軍事クーデターとは全く異なり、権力委譲が進むだろう。
※SAPIO2011年2月9・16日号