老人ホーム、ケアハウス、高齢者マンション……「終の棲家(ついのすみか)」もずいぶん多様化してきている。選ぶポイントは人さまざまだ。
「資産にならないこと」を理由に“終の棲家”を選ぶ人もいる。
2000万部を超えるベストセラー『頭の体操』の著者で、心理学者の多湖輝(たごあきら)氏(84)は高齢者マンション「サンシティ銀座EAST」に2006年から入居している。
「私は子供を作らない主義できたので、身寄りはうちの皇后陛下(妻)だけ(笑い)。ここは賃貸で継ぐ人間はいないから死んだらゼロ。財産なんていりません」
15年分家賃を前払いする同施設の入居費は、5000万~1億2400万円。さらに食費以外の管理費として毎月17万円が必要になる。
価格設定は安くはないが、それもそのはずだ。地上31階の高層ビルにはプールやビリヤード場、介護用のスペースが備えられ、最上階にはバーラウンジもある。
「窓際の席でマティーニを飲みながら、隅田川に映る夕日に見惚れています。自分のボトルを飲むだけだから支払いは従業員への手間賃程度。ある意味、銀座で一番安いバーでしょう」
築地や銀座が眼下に見下ろせるだけあって利便性はこの上ない。ここに住むうちに余生に対する考え方も変わった、と多湖氏はいう。
「大自然に囲まれながらの暮らしに憧れていたけど、高齢者ほど都会に住むべきだと考えるようになったんです。友達も来られるし映画館にも行ける。逆に田舎にいれば呆けるのが早まって、それこそ姥捨て山。うちは何かあった時には聖路加(病院)へのアクセスもいいからね。やはり安心ですよ」
※週刊ポスト2011年2月18日号