いまやビールは庶民にとってちょっとした贅沢品。普段の晩酌は安い「第3のビール」だが、給料日やボーナス日にだけ“本物”を味わえるという家庭は少なくない。こんな日常を生み出すのは、酒税法による規制だ。行政改革担当大臣の補佐官を務め、現在は政策工房社長の原英史氏が、酒税法のおかしな点を指摘する。
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ビール酒造組合の公表資料によれば、ビールの大瓶(633ml標準的な価格345円)にかかる税金は酒税が139円、消費税が16円。税金が約45%を占める。酒税はドイツの20倍、アメリカの12倍程度と、非常に高い。
政府税制調査会専門委員で酒税に詳しい三木義一・青山学院大学教授が説明する。
「明治に税制の基礎ができた時、税収のほとんどを土地(地租)と酒が占めていた。ビール税は明治34年(1901年)に導入され、この頃、酒税収入は地租を抜いた。酒税は国の歳入を支え、日露戦争の頃以来、いわば酒税が戦費を賄ってきたわけです」
なんと「坂の上の雲」の時代に遡る話なのだが、戦後も、高い税は変わらなかった。三木教授が続ける。
「ビールはかつて舶来の高級酒だったから、金持ちに高い税金を払わせるという道理があった。しかし、冷蔵庫の普及の頃から大衆酒になったというのに、役所側は税収を確保するために、“取れるところからは取る”と筋の通らない論理で高い税率をそのままにした」
国会議事録を見ると役所側の税収確保のための“その場しのぎ”の姿勢がよくわかる。 1984年の参院大蔵委員会で、なぜビールの税金が高いのかという質問に当時の大蔵省主税局長はこう答弁した。
「我が国のように、一般的な消費税の体系を持たない国では、どうしても酒税の税負担が高くならざるを得ない」
ご承知の通りその後1989年に消費税が日本にも導入されたが、ビールの税金は高いまま。
その高い税率を避けようとしたのが、「発泡酒」(前記公表資料によれば税合計約34%)や「第3のビール」(税合計約25%)という日本独自の“ガラパゴス商品”。これらは酒税法による規制から生まれた。法でビールは、麦芽使用量が3分の2以上などと定められ(第3条12号)、その隙間を突いて麦芽使用率を下げたのが発泡酒。さらに、発泡酒の税率が引き上げられたので、第3のビールが出てきた。
かつて政府税制調査会長は会見(2004年)で第3のビールについて、「最近、ビール風のビールみたいなものが、まがいものといっては失礼かもしれないけれど、出てきている。酒の文化を損なっているのではないか」などと言っているが、一体、誰のせいで酒の文化を損なったのか。不合理な規制のためにメーカーはそのように強いられているのだ。しかも昨年末の税制論議では、今度は「第3のビールも増税」という議論まで浮上した(結局今回は据え置きになったが)。
※SAPIO2011年2月9・16日号