2000年4月にスタートした介護保険制度の運営主体は市区町村。40歳以上の国民が納める保険料と、国や都道府県の税金補助を財源とし、自治体から「要介護」「要支援」の認定を受けた65歳以上を中心に保険給付が行なわれる。要介護度は「要支援1」から「要介護5」までの7つのランクに分けられ、ランクごとに利用できる介護サービスの限度額が決まる。認定を受ける作業は、介護保険制度利用の最初のステップだが、ここで失敗すると大変なことになる。
本人や家族が市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターなどに「被保険者証」を持参して申請書を提出し、指定した日時に市区町村の職員やケアマネジャーが調査員として訪問調査する。これが最初の認定作業だと思われているが、申請の時点でやっておきたいことがある。
介護保険制度の申請書には、「留意項目等記入欄」がある。多くの人はこの欄にほとんど書き込まないが、本人の日頃の生活の様子や、それまで家族が行なってきた介護などを記入することで、後の判定に有利になる。
というのも、調査員はこの申請書に目を通して訪問調査を行なう。調査時間は45~60分程度だが、質問や確認事項は数多く、介護の大変さを伝え尽くすのは難しい。そこで、調査の前段階で少しでも情報を伝えておくことで、スムーズな調査を受けることが可能になるのである。ただし、「記入欄」のスペースは限られている。日頃から介護の内容を記録しておき、それを「介護実態メモ」として申請書と一緒に提出することをおすすめしたい。
そして、訪問調査の時間の設定がポイントだ。高齢者は早起きが多く、午前中の訪問調査を好む。しかし、午前は体力的に余裕があり、元気に振る舞ってしまうケースが少なくない。なので、疲れが溜まってきた午後、できるなら夕方に調査を依頼した方がいい。実際の介護の現場でも夕方から夜の方が労力がかかる。
ちなみに、調査員の報酬は1件3000円で、手間がかかる割に報酬は高くない。自治体の担当課の新人がやることが多いので、まだ経験の浅い年度初めの4~5月は避けた方が無難だ。調査員の質問に、「YES」だけで答えないのもポイント。例えば、「1人で歩けるかどうか」という質問には、スタスタ歩ける場合も、ずり足でようやく歩ける場合も、「YES」で答えれば、どちらも「歩ける」という判定になる。実際に本人が歩く姿を見せて、「特記事項」に実態を書いてもらおう。
ただし、無理をして実演をやる必要はない。片足での立位保持は、よろけそうで危ないと判断した場合、きっぱりと「NO」といえばいい。
介護の現場で働くケアマネジャー(ケアマネ)や介護士に聞くと、認知症の判定が不当に低いケースが目立つという。認定調査の時に本人の意識がはっきりしていて、調査員が認知症に気付かない場合があったり、かかりつけの医師が認知症に詳しくなかったりするからだ。それは審査会も理解しているので、特に「特記事項」や「主治医意見書」で認知症について少しでも触れていれば、実態に配慮してランクを上げておこうという判断になりやすい。
おすすめしたいのは、家族が本人の日頃の物忘れや不自然な言動について記録を残しておき、認定調査員に渡す方法だ。調査員はそれを特記事項にまとめてくれるだろう。また、大学病院などで認知症の専門医から診断書を受け取り、主治医に渡した上で意見書を作成してもらう方法も有効だ。
※週刊ポスト2011年2月18日号