日本人には他人のモノ真似を評価するという価値観がある。外国の文化やライバル企業の製品を真似することに引け目や抵抗がなく、むしろ模倣して成功することを奨励してきた。その危険性を、お茶の水大学名誉教授の外山滋比古氏が指摘する。
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明治以降、あらゆる面で世界に出遅れていた日本は無批判に外国のものを取り入れた。もちろん、日本に限らず後進国はどこでも同じような成長過程を歩む。日本も効率よく知識や情報、文化を借用することで先進国の仲間入りを果たした。
反面、日本人は独創性を放棄し、「自分の頭で考える」という作業を疎んじた。その結果、日本を代表する大企業がアメリカから幾度となく特許侵害で訴えられ、巨額の賠償金を支払って和解するような事態を引き起こすようになった。
後進国なら世界に追いつくために致し方ないと許されるかもしれない。しかし、日本はすでに先進国である。「模倣・借用文化」は二流国の証であることを自覚しなければならない。
中国を見てほしい。著作権侵害は日常茶飯事で、権利意識の低さに世界の国々が眉をひそめている。日本がそうした国になることを是とするのか。先進国の一角を占める自覚があるなら、特許侵害などの事件を起こしたら恥ずべきことと反省し、二度と同じ過ちを犯さないと誓うべきだ。
ところが日本の社会にはいまだにそうした動きはない。ないばかりではなく、独創性をないがしろにする日本人の価値観は学問や思想、文化の面にも及んでいる。とくに大学レベルの教育現場では既存の知識を習得することに重点が置かれ、新しい概念を生み出そうという気概が希薄である。
【プロフィール】とやま・しげひこ/1923年愛知県生まれ。東京文理科大学(現筑波大学)英文科卒業後、東京教育大学助教授を経て、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授を歴任。83年に出版した『思考の整理学』は150万部を超えるベストセラーに。その他、『知的創造のヒント』『忘却の整理学』など著書多数
※週刊ポスト2011年2月18日号