おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、米国人のデリケートな差別感覚について解説する。
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飛行機の中で、大変な日本びいきのアメリカ人青年と知り合った。日本語が驚くほどうまい。聞けば1年間、日本の小学校に派遣され、英語教師をしていたという。
「日本の子供たちが大好き!」と熱っぽく語る彼だが、1度だけ、日本の小学校で苦い体験をした。オバマ大統領がまだ人気者で、大ブームの渦中にあったころの話だ。
小さな田舎町の小学校を初めて訪ねた日、何人かの子供が彼を見て「オバマだっ!」歓声を上げた。たちまち、教室内に沸き起こるオバマコール。「オバマ、オバマッ!」。最後はクラス全員が連呼し、そばで見ていた教師もニコニコ顔で、一緒になって手拍子を打ったそうな。
彼曰く。「僕が黒人だからって『オバマ』と呼ぶのは人種によるステレオタイプ化じゃない? 第一、先生まで手拍子を打つなんて」
私は「うーん」と考え込んでしまった。確かに、アメリカの常識に照らせば、「黒人」というだけで「オバマ」呼ばわりするのは、悪意がなくとも許されない行為。彼の戸惑いや抵抗感はよ~く分かる。
でも……。日本の小学生にしてみれば、目の前の初対面の黒人の先生を精一杯歓迎したくて、「オバマ、オバマ」と盛り上げちゃったんじゃないかな。そういうことが人を傷つけることもある、ってことを、ただ知らなかったんだろう。たぶん、その場にいた先生たちも。
※週刊ポスト2011年2月18日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第132回より抜粋)