その手で乳房のあらゆるトラブルを解決し、母乳育児に悩む母親の救世主として「おっぱい先生」と慕われる助産師の武田一子氏(78)。母乳を出やすくするのは“基底部”の癒着をマッサージで剥がすのがポイントだという。
ところでなぜ、基底部が癒着してしまうのか――。
その理由を問うと、意外な答えが返ってきた。
「それは、人間が二足歩行だからです。犬や猫などの四足動物に乳腺炎などのトラブルがないのは、おっぱいが下向きに付いていて癒着しないから。乳房は重くなるほど垂れ下がりますからね。そこへいくと人間は直立し、寝るときは仰向け。重くなるほどに押さえつけられ、癒着もしてしまいます。乳房に最もよいのは四つん這いで生活をすることでしょうね(笑い)」
高機能な掃除機や便利な清掃道具が増えて、最近すっかりやらなくなった雑巾がけも、実は乳房想いの動作であったのだ。
さらに、と武田氏は思いがけない理由を口にした。
「まだブラジャーがなかった時代には、基底部の癒着というのはまずなかったのではないでしょうか。今は中学生くらいからブラジャーをつけますが、身体の成長が著しい中学時代は乳房もまた育ち盛りの時期。その成長期にブラジャーをしてしまうと、基底部を圧迫して癒着しやすい環境に導いてしまうのです。母乳が出なくなる一因ともいえますね」
昨今は乳房を寄せて上げる谷間強調のブラジャーが全盛だが、乳房にとっては好ましい状態とはいえない(男性にとってはありがたい限りであるが)。妊娠期には特にブラジャー選びに気をつけてほしいという。
「妊娠するとホルモンの影響で乳房が張って、後半期には徐々に大きくなり乳腺も発達していきます。大きくなっていく乳房の成長に合わせて、ゆったりと包むようなブラジャーを選んでほしいものです。“寄せて上げる”といったような過度に乳房を圧迫するブラジャーは、お勧めできません。
女性には美を追究したい欲求がありますから、妊娠前からそうした下着を全否定するつもりはありません。ただし妊娠したら授乳のために、よりよい乳房に整えてほしい。育児の基本はなにより母乳にありますからね」
二足歩行やブラジャーの発達以外にも、食生活の欧米化や運動不足、肩や腕を部分的に使うパソコンによるデスクワークが増えたことなども、基底部が癒着しやすくなる原因だそうだ。
※週刊ポスト2011年2月18日号