老人ホーム、ケアハウス、高齢者マンション。「終の棲家(ついのすみか)」とは人生の終着点を示すと同時に、一抹の寂しさを伴うと考えられがちだ。しかし、少しずつその印象は変わりつつある。有名人が晩年を過ごす様には、理想的な「死に方」のヒントが隠されている。
JR札幌駅から電車で25分。駅前の繁華街を抜けると2棟の大きなマンションがそびえる。その一つのロビーに横断幕が掲げられていた。
祝ノーベル賞受賞――。
ここはノーベル化学賞を昨年受賞した北海道大学名誉教授・鈴木章氏(80)が入居する高齢者マンションである。
館内の健康相談室にはスタッフが常勤して、各部屋のインターホンはフロントと24時間繋がっている。2階まで吹き抜けの豪華ロビーには、シャンデリアがさがる。施設内には男女別の大浴場、温水プールまで完備される。何より高齢者施設の印象を払拭する「明るさ」がここにはある。
入居者の一人が語った。
「鈴木さんは、大学への利便性でこの物件を選んだ。今はセカンドハウスのような形ですが、いずれは自宅を引き払ってご夫婦で住むみたいです。鈴木さんが住む部屋の窓からは札幌市内が一望でき、晴天時にはテレビ塔まで見渡せるそう」
現在の分譲価格は1LDKで500万円から。毎月の諸費用は約10万円強だ。
このマンションの関係者は、「現在の入居者の最高齢は97歳。物件は常に予約待ちで、空きが出るのは入居者がお亡くなりになってからがほとんど」と語る。
国内外700か所の高齢者用施設を視察した経験を持つ、一般社団法人有料老人ホーム入居支援センターの上岡榮信・理事長はいう。
「これまで日本社会は介護や看取りの問題を家族や個人の範囲を超えて議論することはタブー視されてきた。でも超高齢化社会の到来で高齢者施設も確固たる市場を形成し、情報がオープンになった。サービスの整った施設は人気が集まるし、そこに入ることも抵抗がなくなってきたと感じます」
※週刊ポスト2011年2月18日号