おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、米国人のデリケートな差別感覚について解説する。
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デラウェア州交通局が職員に対し、「こういう言葉はステレオタイプや差別につながるから使わないように」と、“禁句集”を配ったことがあった。
掲載された例文によると、アフリカ系アメリカ人の同僚に対して「フライドチキンとメロンを注文しようか?」は絶対ダメ。両方とも奴隷時代の黒人の代表的なソウルフードだからだ。
中南米系の同僚に「庭の手入れを手伝ってくれないか」(庭仕事に従事する安い労働者の多くが中南米移民)や、「おいしいメキシコ料理店、知らない?」(みながメキシコ人とは限らない)もダメ。
アジア人の同僚に「パソコンが壊れたんだよ。修理してくれない?」というのもNGだ。否定的なニュアンスでなくても、「アジア人=IT人間」というステレオタイプを反映した言葉だから、という。
ちなみに、デラウェア州のこの禁句集、「差別を助長する」と結局、批判の的となった。ステレオタイプというのは、アメリカでは、ことほどさようにビミョーな問題なのだ。
そういや、うちの息子も野球でアメリカ人の子供たちから「イチロ~ッ!」と応援されるとムッとする。普段はイチロー選手を尊敬していても、「日本人=イチロー」とステレオタイプに見られるのが嫌らしい。同じ声援を日本で日本人の仲間からもらったら、素直に光栄と思えるだろうにね。う~ん、難しい!
※週刊ポスト2011年2月18日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第132回より抜粋)