いつかやってくる老親の介護。そこにお金がからむと家族間のトラブルに発展することがままある。
「施設での介護が必要と思われるのに、息子さんが入所させようとしないケースがあるんです。理由は施設に入ると親の年金が好きなように使えなくなること。本当に悲しくなりますね」
ケアマネジャーのHさんは、そういってため息をつく。親が認知症なのをいいことに、親の老後資金を子供が食い潰すという、「経済的虐待」である。
「有料老人ホームで暮らす母親の面倒を見ていた兄が、私たち他の兄弟に何の相談もないまま、母を月30万円の施設から20万円の施設に移してしまった。新しい施設を訪れると、サービスが低下していることは明らか。要するに、母親の金を勝手に使っていたんです」(Iさん・40代男性)
逆に、親のために家をバリアフリーにリフォームしたところ、他の兄弟に「自分のために勝手に使った」と誤解され、険悪になったケースもある。
ファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏は、こうアドバイスする。
「子供たち全員の了解のもとに、介護専用の銀行口座を開設してはどうか。費用はすべてその口座から引き落とされるクレジットカードを利用すれば、トラブルを未然に防げます」
遺産をめぐるトラブルも深刻だ。3人兄弟の長男・Jさん(60代男性)の話。
「長男だからと長年母親の面倒を見てきて、介護費用のために自分の預貯金もほとんど使い果たした。母が亡くなった時、遺産は同居していた土地と建物だけでした。
ところが介護にまったく無関心だった二男と三男が遺産相続の権利を主張して、家を処分して3分割しろといってきた。家を処分すれば住むところもなくなると説明したが、聞く耳を持たないんです」
前出の紀平氏は、介護が発生した時には、早めに遺言書を作成しておくことをすすめる。「遺産の分割比率を記すだけでなく、具体的に“こういうことを自分にしてくれたから、その尽力に感謝する意味で配分を多くする。他の兄弟はこうした親の気持ちをわかってほしい”と記す。そうすれば皆も納得しやすい」
すべての人にとって介護は他人事ではない。こんなトラブルに巻き込まれないように、できるだけの準備をしておきたい。
※週刊ポスト2011年2月18日号