各国でトップが交代する可能性がある「2012年問題」を前に、日本は存在感の薄い国連に頼ろうとしている。ここに大きな問題があると国際ジャーナリストの落合信彦氏は警鐘を鳴らす。
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危機が迫り来る中で、存在感を発揮できていないのが国連である。日本にはやたらと「国連の指導力」だの「国連の決議」だのに期待する政治家が少なくないが、そういった連中は現状を何も理解していないし、歴史を全く勉強していない。
ソ連によるアフガン侵攻、アメリカが突入したベトナム戦争、イギリスが踏み切ったフォークランド紛争。安全保障理事会の拒否権を持つ大国が、自国の利害で動く時、国連は無力だった。ユーモアのセンスに富むイスラエル人が、よく国連のことを「United Nothing」と揶揄する所以はそこにある。
国連が指導力を発揮した事例を敢えて探すとすれば、スウェーデン人のダグ・ハマーショルドが2代目事務総長を務めていた頃にまで遡る。1956年のスエズ戦争では、拒否権を持つ大国の利害が対立する中で、総会の決議をもとに第1次国際連合緊急軍を組織し、停戦監視を見事に遂行した。
平和を心から願い、危険を顧みずに何度も紛争地へ自ら赴く彼の姿は、多くの人の心を動かした。残念ながら1961年、ハマーショルドは事務総長在任中に搭乗していた飛行機が墜落し、この世を去った。コンゴ動乱の停戦調停のために現地アフリカに向かう途中でのことだった。当時、アメリカ大統領だったケネディは「最も偉大な政治家の一人であった」と語った。
五つの大国が拒否権を持つというシステムである以上、事務総長が重大な決断を下せる資質を持った人間であることが、国連を機能させる絶対条件である。しかし、ハマーショルド以降の事務総長で、彼ほどの能力と熱意を持つ人間はいなかった。
今、国連がイランに対しても、北朝鮮に対しても、何ら有効な手立てを打てていないことが何よりの証拠だろう。
「国連に頼る」ということは国際政治のゲームにおける思考停止に他ならない。「国連中心主義」を掲げ、自衛隊を国連に差し出すなどと主張していた小沢一郎は、もうすぐ政治の世界から完全なる退場を余儀なくされることになるだろう。しかし、未だに外務大臣が「常任理事国入りを目指す」などと大見得を切って発言してしまうのが、日本の政治、外交のレベルなのである。潰れかけのゴルフクラブの理事会メンバーになったところで、なんのメリットもない。いい加減、そのことに気付くべきではないのか。
たとえ日本が思考停止に陥っても、世界は待ってくれない。セカンド・ディケイドの火薬庫につながる導火線は、いつ点火されてもおかしくないのだ。
※SAPIO2011年2月9・16日号