総理大臣が持つ最大の権限は、国民の負託を受けた480人の代議士を一存でクビにする「解散権」である。総選挙の直接経費だけで約800億円の税金がかかり、結果次第では政策はもちろん、国政の枠組みも大きく変わる。
だからこそ、歴代首相は解散権の行使に抑制的だった。菅直人首相も国会では野党の解散要求を拒否し続けている。
ところが一方で、永田町には<3月解散説>がにわかに強まっている。それを吹聴しているのは、解散を否定したはずの首相の側近たちだ。
「消費税論議やマニフェスト見直しに党内がガタガタいうなら、国民に直接問う。選挙になれば小沢派のほとんどは落選するだろう。仮に政権を失うことになっても、民主党は小沢抜きの結党の原点に戻って出直せばいいという覚悟だ」
首相補佐官の1人は、番記者とのオフレコ懇談でそうまくしたてた。
首相一派の解散論は、政権選択ではなく、民主党内の敵対勢力に刃が向けられている。党内の権力闘争に「解散」を利用するのは、小泉純一郎・元首相が郵政選挙で使った手法だが、その政治ゲームのツケがどれほど重かったか、有権者は身にしみている。
それでも解散風を吹かそうとするのは、菅首相の党内基盤だった「反小沢勢力」が次々と泥舟から逃げ出そうとしているからである。党執行部による小沢一郎・元代表の処分の動きが急速にしぼんでいることが、それを如実に物語っている。
菅首相は小沢氏が強制起訴されたら、議員辞職を勧告する姿勢を見せていた。ところが、民主党役員会では、処分については岡田克也・幹事長に一任され、「半年間の党員資格停止」という形だけの処分が濃厚だ。民主党国対幹部はこう語る。
「小沢さんに忠誠を誓う輿石(東・参院議員会長)さんも岡田一任を了承した。岡田さんも仙谷(由人・代表代行)さんも、厳しい処分はしないとわかっているからだ。もはや執行部に菅首相と心中するムードはない」
2月10日に菅首相は小沢氏と首相官邸で約50分間会談し、「裁判が終わるまでは党を離れてもらえないか」と伝えて虚勢を張ったが、小沢氏に「それは党が決めること」と軽くいなされた。
※週刊ポスト2011年2月25日号