FXで損をした個人投資家も多いだろう。しかし、本人が気づかないだけで、中には業者の餌食となっていた人もいる。元為替ディーラー・竹山和樹氏が手の内を明かす。
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頻繁にFXをする人の中には、「ストップ狩り」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
多くのFX業者では、損失が大きく膨らまないよう、予想と逆に相場が動いた場合、例えば「ここまで下がったら損切りする」というようなストップロス注文を入れることができます。その注文があるラインに集中していた場合に、業者側がレートを“操作”して顧客の証拠金を狩るのが「ストップ狩り」と呼ばれています。インターネットなどで都市伝説のように語られてきましたが、私は、それが実際に行なわれていたケースをいくつも知っています。
例えばこんな具合です。業者には、顧客から「いくらのところに」「どれくらいの規模の注文があるか」が見えています。そこで、ある一定ラインに注文が集中している場合に、社内の“ストップ狩り部隊”が動く。端末の「↓」ボタンをちょんちょんと押すだけで、少しずつ顧客に提示するレートが下がります。
この時、実際にお金をやり取りしてレートを動かしているわけではありません。相対取引ですから、業者が提示するレートは基本的に自由であり、市場と多少離れていても構わないのです。だから「↓」ボタンで〝人為的〟に動かす。ただ、一気に下げては不自然だから、「↓」「↓」「↓」「↑」「↓」「↑」「↓」「↑」のように押して、自然なチャートを作る。いかにも自然な値動きを装いながら操作できた社員は「お前、うまいな」と褒められたり、逆に一気にレートを動かしてしまった社員が「やべえ、今日の最安値つけちゃったよ」と頭を掻くこんな光景が繰り広げられます。
「ここまで下がったら損切り注文を出す」といった、いわゆる逆指値注文は、「損失を膨らまさないためのリスク管理の手段」と言えば聞こえはいいですが、業者側から見れば、「この値段まで下がったら諦めて損切りします」と顧客が宣言しているも同然。ですから、非常に“うまみ”があるんです。
ちなみに、この行為も相対取引である以上、違法ではありませんが、投資家保護という観点からは決して褒められたものではありません。それによって顧客離れが進めばせっかくの収益源を逃してしまうわけで、大手ではほとんど行なわれておらず、小規模の業者に限られると言えます(それに、“ストップ狩り”のためにわざと下げると、市場より低いレートになったことにより別の顧客から買い注文が入って、業者が損失を被る可能性があります)。
※SAPIO2011年2月9・16日号