おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』などがある。おぐに氏が、米国で跋扈する「タイガー・マザー」について解説する。
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日本では「タイガー・マスク」が話題だったらしいけど、アメリカでは「タイガー・マザー」がすごいことになっている。虎母―超スパルタ教育で子を育てる中国の母親のことだ。
イエール大学のエイミー・チュア教授が自分の子育て体験を本にまとめ、「中国式子育て」をこう称した。この本、今やベストセラーだ。
「虎母」の子育ては、「オールA」の成績以外は認めない。友達との放課後遊びもテレビもゲームも禁止。ピアノかバイオリンを毎日数時間は練習させ、できなきゃトイレも食事も睡眠もなし。子供が失敗すれば、他人の前で「あんたなんかゴミよ!」と平気で罵倒する……。
その甲斐あってか、チュア教授の長女は14歳のとき、カーネギーホールでピアノ独奏デビューを果たしたんだそうな。
この「中国式(?)」の子育て論にアメリカ人のママたちはびっくり仰天! なにしろ「子供をほめまくって自尊心を高めましょ~」のアメリカ式とは、まさに対極だものね。私の周囲でも批判の声が多い。「あんなの児童虐待よ」「今は優秀でも必ずひずみが出る」「自主性も独創性も育たないわ」と。
かといって、「中国式」を完全に無視できないのが、今のアメリカの母親たちのツライところだ。「確かに、アメリカのトップクラスの大学なんて中国、インド、韓国人の学生ばかり」「娘の小学校でも、難易度の一番高い算数クラスもアジア人が目立つわ」「学生オーケストラもそうよ」「アメリカの子育てってこのままでいいのかしら……」
世界金融危機後のアメリカの自信喪失と、台頭する中国への脅威も手伝って、「虎母」を全否定できなくなっちゃってるんだろうな。
※週刊ポスト2011年2月25日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第133回より抜粋)