心の準備もできず、愛する人に別れの言葉もいえずに突然の死を迎えざるを得ないのが、くも膜下出血の厄介なところである。発生メカニズムや危険因子など、明らかになりつつあるこの病魔の正体は、現代人なら常識として知っておかねばならない。
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脳動脈瘤は血流がぶつかりやすい血管の分岐点に生じやすい。『「くも膜下出血」のすべて』(小学館101新書)の著者で、東京・西葛西の森山記念病院名誉院長を務め、長年くも膜下出血治療の最前線で活躍してきた脳神経外科の権威、堀智勝氏はこう語る。
「発生メカニズムはまだ謎が多いですが、高血圧などの長期にわたる血行力学的ストレスや、血管への微小な外傷によって動脈に解離性変化が起きて瘤ができるという説が有力です」
発症の危険因子は高血圧、喫煙、過度の飲酒、風邪などの感染症、痩せ型などだ。脳梗塞が脂質異常症や糖尿病を抱えた肥満体型の人に起こりやすいのに対し、くも膜下出血は痩せ型に多いということはあまり知られていない。1日150グラム(日本酒で1合)以上の飲酒も危険であり、1日に1箱以上のヘビースモーカーも要注意だ。インフルエンザなど感染症にかかってから1か月以内も危険性が高まる。
家族歴(遺伝)が影響するという説も根強い。一親等以内の近親者に脳動脈瘤患者がいる人の4%が脳動脈瘤を有するとの報告もあり、通常の家族歴のない患者に比べて3~7倍もくも膜下出血のリスクが高いともいわれている。
堀医師はさらに興味深い統計を紹介してくれた。「なぜかくも膜下出血は日本人とフィンランド人に多いのです」
最も少ない中東地域では、1年で人口10万人あたり1~2人だが、日本やフィンランドでは約20人に上り、他の国に比べて格段に多くなっている。日本人とフィンランド人の脳血管が弱いことが考えられるが、その理由はわかっていない。
『脳卒中データバンク2009』によると、朝の7~8時、午後の5~6時に発症のピークがある。出勤の時間帯と、帰宅の時間帯に発症が多いことがわかる。
「季節による発症率の変化はそれほど感じないのですが、気圧の変化が関係しているのではないかと感じることがあります」(堀氏)
昨年発表された沖縄の八重山諸島での調査では、8月および月曜日に発作を起こすことが多く、台風接近日前後3日以内は他の時期に比べて1.8倍多いという結果が出ている。月曜日は『あぁ、また仕事が始まる……』とストレスを感じる人が多いため、くも膜下出血の多さに影響しているともいえそうだ。
「くも膜下出血とストレスの関係についてもいくつかの調査があります。東北大学やアムステルダム大学の調査では、睡眠中は10%前後と低い発症率なのに対し、身体活動による血圧の上昇や排便・排尿のような頭蓋内静脈圧の上昇を伴う動作の最中が40~60%台と高く、脳動脈瘤破裂を誘発する可能性があるといえます」(同)
※週刊ポスト2011年2月25日号