「財産には強い因縁があり、これを払わないと先祖は救われない」といった理屈で印鑑や壺を売る霊感商法は1980年代から社会問題化した。しかし、最近は、新たなスタイルの霊感ビジネスが跋扈し始めていると、カルト事件などの被害者救済に取り組んできた弁護士の紀藤正樹氏は指摘する。
* * *
霊感商法の特徴は、虚偽の話を信じ込ませたり、脅かしたりすることを長期間繰り返すことで、相手をマインドコントロールし、継続的に収奪していくことだ。
「継続性」が特徴であるために、結果として被害は大きく膨らんでしまう。私が相談を受けた人の中には、1件の被害額が1億円を超えているケースがいくつもあり、数千万円まで含めると何十件もある。
しかし、ここにきて、かつての霊感商法とは違うタイプの悪徳商法が目立つようになってきた。効果・効能の科学的根拠がないのに、「この御札を持っていれば幸せになれる」「このペンダントをすれば恋人ができる」「この石を持てば気持ちがやすらぐ」といった謳い文句でグッズを通信販売したりする商法である。
海外に比べると日本は効果・効能などの表示に対して、規制が緩やかなことを逆手に取った手口といえよう。そうした商品は、せいぜい数万円から数十万円であり、被害も「1回限り」が多く、継続性がないものがほとんど。
独立行政法人・国民生活センターが受け付けた苦情相談事例では、
〈広告を見て業者に電話。電話の中での易断の結果、恋愛成就には祈祷が必要といわれて依頼。半年経つが効果がない〉
〈自分では注文していないのに金運財布が届き請求書が入っていた〉
〈海外の預言者から1万4000円を振り込めば幸運をもたらす商品を送るというDMが届いた〉
といったケースが挙げられている。ただし、こうした悪徳商法もさらに多額の被害の端緒となる。
たとえば「3万円のペンダントを買ったが、まるで効果がない」と購入者がクレームをつけたところ、「あなたの背後霊が強くて、そのペンダントでは効かない。その背後霊を除霊するには、あなたにはこれが必要だ」などと言われて、20万円の別の商品を買わされたといったケースがある。
世の中には、いまだ科学的に解明できていないものや、理屈がつかないものがたくさんある。そのため、人々の宗教的なるものに縋りたいというニーズは、今も減っていない。最近、パワースポットを訪れることがブームとなっているのも、その証左であり、既にパワースポットを利用した新たな霊感商法も登場している。
現代人の健康志向や不安を逆手にとり、次々と新しい手口が編み出されているのだ。
全国の消費者センターと国民生活センターが、2009~10年度に受け付けた「運勢が開ける」「幸福になる」などと言って、商品や祈祷などのサービスを契約させる開運商法(霊感商法を含む)に関する被害相談の件数は3952件(2011年2月7日現在)に上る。相談に来ていないケースを含めれば、実際の被害は、その数十倍~100倍以上になるだろう。
このような悪徳商法から身を守るためにも「金を払う前に、まず友人、家族に相談する」という基本を絶対に忘れないでいただきたい。
※SAPIO2011年3月9日号