菅政権が打ち出した「社会保障と税の一体改革」をめぐる議論には、大きな盲点がある。国民生活を危機に陥れるその基本的問題点を、大前研一氏が指摘する。
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現在の日本の財政状況は、単純にいうと「50の収入に対し、100の出費と1000の借金」である。この方程式を一体どうやって解くのか。
問題を解決するには、収入を2倍にするか、出費を半分にするしかない。ただし、税収自体は50兆円ではなく40兆円しかないから、2倍にして80兆円。同時に出費を、イギリスのキャメロン政権のように公務員を50万人削減するなどして、せめて20%減の80兆円にしなければならない。それで、ようやくプライマリーバランス(基礎的財政収支)が均衡する。しかし、借金は返せない。
現実には国債費(利払い費+償還分)だけで年間20兆円以上あるから、1000兆円の元本を返済することはできないのだが、とりあえず収支を均衡させないと日本国債の格付けが現在の「AA-(マイナス)」からギリシャ並みのBB+あたりまで落ちて、デフォルト(債務不履行)に追い込まれるのは必至である。
逆にいえば、日本がデフォルトせずに何とか食いつないでいく方法は、税金倍増と歳出の20%削減しかないのである。債務の元本を返済するには、さらに歳出を20%削減し、20兆円ずつ50年かけて返済していくしかない。
万一デフォルトすれば、借金は返さない、とトボケることもできるが、日本人がせっせと蓄えてきた1400 兆円の個人金融資産は消えてなくなるだろう。金融機関は顧客から預かったお金で国債を買っているので、国がデフォルトしたら金融機関もすべて潰れる。その結果は、国が国民の貯金を召し上げるのと同じである。
そこで国が辻褄を合わせるためにお金を印刷したらハイパーインフレになり、国の借金は帳消しになるが、貯金も一気に目減りする。これまた財産没収に等しい。つまり貯金は結局、時間差の“納税”に化けて国家に没収されてしまうのだ。
※週刊ポスト2011年3月4日号