フリーキャスターの草野仁氏(66)は、筋骨隆々のマッチョ司会者として知られるが、その肉体は元々、土俵の上で鍛えあげたものだ。東大在学中に相撲の国体・長崎県予選で優勝した経験を持ち、ガチンコ横綱として知られた鳴戸親方(元横綱・隆の里)と親交が深い。
相撲を愛する同氏は、1970~80年代、NHKのスポーツアナウンサーだった頃のエピソードを明かして、今回の八百長騒動の根の深さを指摘する。
「スポーツアナ志望者は野球班か相撲班かを最初に選ぶのですが、私は野球でした。すると、指導係の先輩に“野球で正解だよ。勝負が決まっている試合なんて、真剣に中継できないよな”といわれました。その頃から、中継に関わる者の間では八百長は当たり前で、皆が見て見ぬふりを続けていたわけです」
そのうえで草野氏は、「問題が発覚した途端に、掌を返して“八百長を許すな”と騒ぐ今の報道ぶりには、首を傾げてしまいます」と眉を顰める。
「例えば、元力士のコメンテーターが“八百長なんて見たこともない”と話した直後に、疑惑の取組のVTRで“これは八百長にありがちな決まり手です”などと解説している。見ていたファンは“なんだ、あなたも八百長をしていたんじゃないか”と思うはずです(苦笑)。何の取材もせずに批判する姿勢は、みっともないと感じます」
相撲協会とメディアの緊張関係がなくなった理由について、こう続ける。
「神事でもある相撲は、時の権力者から保護を受けてきた歴史があるために、協会側に“取材をさせてやっている”という意識があった。NHK時代に取材で理事長室を訪れた時、ある理事が“この局は気に入らん”といって、取材申請の紙を無造作に破いて捨てていたこともありました。
そうした姿勢をメディアは批判しなくてはいけないのに、逆に媚びていった。NHKの相撲担当幹部の仕事は、時の協会幹部たちと“良い関係”を保つことだったと聞いています。当時の大相撲中継は高視聴率でしたから、民放に放映権を奪われてはならないと考えていたわけです。角界の改善点について真面目に取材する記者もいましたが、協会批判などとても許される環境ではなかった。自戒を込めていいますが、八百長や年寄株売買に代表される角界の問題を増幅させていった責任は、メディアにもあると思います」
その上で、草野氏はこう提言する。
「私は大相撲がなくなっていいとは思いません。この事件は、協会とメディアが対等で緊張感を持つ関係を築くいい機会です。相撲に愛情を持ち、健全な発展を願う人々に取材現場を開放し、耳の痛い意見にも向き合う。そして報道する側もお追従や感情的な批判ではなく、きちんと自分で取材をして冷静な視点で角界に意見をいうべきです」
※週刊ポスト2011年3月4日号