日本は多種多様な宗教が狭い国土にひしめき合っているが、海の向こうの大国、アメリカはどうなのか。キリスト教をベースにしながらも実はここにも多様な宗教が存在する。その中でも独自の理論を展開する宗教を在米ジャーナリスト、武末幸繁氏が紹介する。
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2005年、カンザス州教育委員会で、公教育には進化論と同等に「インテリジェント・デザイン論」も教えるべきだとの意見が出た。インテリジェント・デザイン(ID)とは、複雑な仕組みを持つ生命、人間などは進化論では説明がつかず、何らかの「高度な知性」によって設計されたとする説だ。
当然、科学と宗教を混同するなという批判があるが、米国民の4割がなんらかの形で天地創造説を信じているといわれ、大きな影響を与えている。
カンザス州教育委員会でこの提案の可決は確実という状況に対し、オレゴン州立大学物理科を卒業した25歳のボビー・ヘンダーソンが教育委員会に公開質問状を提出し「空飛ぶスパゲティモンスター教(Flying Spaghetti Monster)」を進化論、ID説などと共に教えるべきだと訴えた。
この宗教の教祖はもちろんヘンダーソンで、「宇宙は空飛ぶスパゲティモンスターによって作られた」、「進化はモンスターの麺触手によって推進されたことはあらゆる証拠が示している」と主張。教義は、「地球温暖化などの異常気象は海賊の減少が原因」、「男性の乳首は海賊が気温や風向きを計るのに必要だったため存在する」などと荒唐無稽なのだが、要はID説推進者の屁理屈を使って立ち上げたシャレの“宗教”である。
ネット上で大評判となるが、同年11月、カンザス州教育委員会はIDを進化論と共に教えることを定めた教育基準を多数決で可決した。しかし2006年の改選で、ID賛成に回った委員は全員落選し、新たな委員によって元の基準に戻されている。
なお、現在ヘンダーソンは世界中に自称1000万人(AP通信によれば数千人)の“信者”を持ち、“フルタイムの預言者”として身を立てているという。
※SAPIO2011年3月9日号