菅政権が打ち出した「社会保障と税の一体改革」をめぐる議論には、大きな盲点がある。国民生活を危機に陥れるその基本的問題点を、大前研一氏が指摘する。
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危機的状況に直面しているにもかかわらず、「増税は絶対にイヤ」というのが日本国民だ。世界でも類を見ない“税金嫌い”の日本国民の租税負担率は約25%でアメリカと並んで世界で最も軽く、これまで消費税増税を掲げた政権はすべて選挙で敗北している。
菅首相も消費税増税は「次の政権」に棚上げしている。だから、昔からずる賢い官僚は税金でカバーする分野も年金や雇用保険、健康保険という名前にして、社会負担として徴収してきた。しかし、それらは税金と呼ばないだけで、天引きされるサラリーマンにとっては税金と同じである。
ことほどさように日本の国民は増税を嫌う一方で、子ども手当や高校無償化、農家の戸別所得補償など、政府がくれるものは大歓迎する。そこには何のロジックもない。あるのは目先の損得と情緒的反応だけである。政権政党としては税金を使った集票行動、という卑しい行為である。
さらに、現在の日本の社会保障システムには、「負担は不均等でも受益は均等」という問題がある。国民年金と国民健康保険は赤字だが、厚生年金と企業健康保険は黒字だ。にもかかわらず、年金も健康保険も受益は同じである。たとえば、病院で治療を受けた時に国民健康保険でも企業健康保険でも同じ治療が受けられるし、患者の負担は変わらない。
農民・漁民や商店主などの青色申告者に甘く、サラリーマンには厳しい仕組みになっているのだ。つまり、現在の社会保障システムはイカサマで、クロスサブ(内部相互補助)して全体でOKという仕組みである。
※週刊ポスト2011年3月4日号