昔はペットを飼うといえば犬。一戸建ての庭に犬小屋を置き、そこに番犬がいる、というのが当たり前だった。ところが、いつの間にかそういった風景は少数派になっている。
ペットフード協会が毎年調査している「全国犬猫飼育実態調査」によれば、室内のみで飼われている犬が30.4%。散歩・外出時以外は室内で飼われている犬が41.6%。つまり、7割以上が「室内犬」なのだ。
「私がこの千葉県鎌ケ谷市で獣医を始めた28年前は、犬の3分の2は屋外飼育されていました。マンションが多いせいもあるでしょうが、今は犬の9割以上が室内飼育になってますね。猫もそれ以上が『家猫』です」
こう語るのは『危ない!ペットとあなたを感染症が襲う』の著者で、獣医の伊東彰仁氏(52)だ。
伊東獣医師によれば、この30年間で「ペットと人間の共生」が進んでおり、感染症や寄生虫の危険性が無視できないという。
「ズーノーシス、というのは聞きなれない言葉ですが、『人獣共通感染症』という意味。このズーノーシスの危険性が人間とペットの距離が短くなった今、非常に高まっています」(伊東氏)
有名なのは「狂犬病」。発症した犬などに咬まれることで人間にも感染する病気で、発症してしまったら致死率は100%だ。
「狂犬病などは、かかった犬も人間も死亡してしまいますが、人間と動物が同じ症状を示す例は少ないのです。逆に動物の体の中では悪さをしないウイルスや菌、寄生虫などが、人間の体に入ることで重大な疾患を起こすことがあります」(伊東氏)
その狂犬病予防のワクチン接種は、法制化されているのに飼い犬の4割程度(※)にしか実施されていない。いったい日本の飼い主は、大丈夫なのだろうか。
※厚生労働省への登録犬のなかで、狂犬病の予防接種を行なっているのは74.3%だが、ペットフード協会調査の飼育実態によると実際に飼われている犬は登録数より多く、接種もわずか41.5%になる。
※週刊ポスト2011年3月4日号