ライフ

岡本太郎「太陽の塔」で能天気な未来志向の万博を否定してた

 芸術家・岡本太郎(享年84)が他界してから15年。2月26日に生誕100周年を迎えた。岡本の代表作として知られる大阪万博の「太陽の塔」について、岡本太郎記念館館長で空間メディアプロデューサーの平野暁臣氏が解説する。

 * * *
 1970 年、史上最大の万博に日本中が沸き立った。宇宙船、月の石、ロボット、テレビ電話……、未来が突然舞い降りたからだ。

 万博は「輝く未来」を語る。生まれたときからそうだった。大衆に「産業技術の発展が人を幸せにする」との進歩主義を啓蒙するためだ。「国威発揚」「技術礼賛」「産業振興」。万博はこれ一筋でやってきた。だが、その万博史にひとつだけ異物が刻まれている。「太陽の塔」だ。あの異様なフォルムで「夢の未来都市」のド真ん中にヌッと立ち、約70メートルの高みから会場を睥睨。土俗的な風体はまさしく万博思想の対極だ。

 そもそも「太陽の塔」は万博のシンボルタワーとして作られたものではない。テーマプロデューサー・岡本太郎の職責は、展示という形式で万博のテーマを解説すること。芸術作品の制作など誰からも頼まれてはいなかった。「俺はベラボーなものを作る」。太陽の塔は、そう宣言した太郎が勝手に構想し力づくで突き立てたものだ。会場を覆う能天気な未来志向に「ノン」 を突きつけるためである。

 さらに太郎は「人類の進歩と調和」というテーマをも否定する。「人類は進歩なんかしていない。なにが進歩だ。縄文土器の凄さを見ろ。皆で妥協する調和なんて卑しい」。彼はテーマ館での展示の大半を「太陽の塔」の内部と地下に収め、「進歩と調和」とは正反対の「人の根源」を考える芸術的で呪術的な空間を現出させた。

 いのち、遺伝子、闘い、いのり、混沌、まつり……。狩猟民族の闘いのシーンと抽象芸術を融合させ、世界から集めた無数の仮面と神像をむき出しのまま中空に浮かせた。予算とスペースのほとんどを旧石器時代までの話に費やしている。皆で「夢の未来」を語り合う万博にあって、異常というほかはない。

「万博の価値観なんて信じるな!」、テーマ展示はそういっている。万博の価値観も、語るべきテーマの概念も、太郎は信じていなかった。確信犯だ。太陽の塔は岡本太郎が万博に仕掛けたテロだったのである。

 当時「ハンパク」という言葉が流行っていた。万博反対。略して反博。体制に手を貸す芸術家として太郎はその矢面に立たされた。だが非難されても彼は笑っていた。「反博? なにいってんだい。いちばんの反博は太陽の塔だよ」。

 あれから40年。太陽の塔はいまも見る者を圧倒し、挑発し続けている。何を表わしているのかわからないのに心に響く。これほど巨大で力のあるパブリックアートはおそらく世界にも例がないだろう。

 思えば奇跡だった。はたして今の日本に同じことができるだろうか。

※週刊ポスト2011年3月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

広末涼子(時事通信フォト)
【自称・広末涼子容疑者が逮捕】「とってもとっても大スキよ…」台湾フェスで歌声披露して喝采浴びたばかりなのに… 看護師女性に蹴り、傷害容疑
NEWSポストセブン
北極域研究船の命名・進水式に出席した愛子さま(時事通信フォト)
「本番前のリハーサルで斧を手にして“重いですね”」愛子さまご公務の入念な下準備と器用な手さばき
NEWSポストセブン
麻布台ヒルズの個展には大勢の人が詰めかけている
世界的現代美術家・松山智一氏が問いかける“社会通念上の価値の正体” 『うまい棒 げんだいびじゅつ味』で表現したかったこと
週刊ポスト
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
工藤遥加(左)の初優勝を支えた父・公康氏(時事通信フォト)
女子ゴルフ・工藤遥加、15年目の初優勝を支えた父子鷹 「勝ち方を教えてほしい」と父・工藤公康に頭を下げて、指導を受けたことも
週刊ポスト
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン