ここにきていよいよ民主党内にも「解散やむなし」の空気が漂いつつある。今のタイミングで解散・総選挙がとなれば、政局はどう動くか? 選挙基盤が弱い若手議員はパニック状態だ。
菅支持派の1年生代議士・大西健介氏(愛知13区)は、逆風の上に、対立候補だった大村秀章氏が愛知県知事に当選し、「減税日本」から刺客を立てられる危機にもさらされている。
「民主党政権でも自民党政権でも、税と社会保障の一体改革をやらなければ日本は財政的に立ち行かないことを国民の多くは理解してくれると思う。しかし、いま解散すれば民主党は政権を投げ出すことになるでしょう。本音をいえば総選挙はもっと先、政権の実績をあげてからにしてほしいが、解散権は総理にあるから選挙というなら戦うしかない」
と悲壮な決意だ。別の菅支持派の1年生議員は、
「総理は昨年9月の代表選の際にわれわれとの懇親会で『3年間は解散しない』と約束し、社会保障制度の改革に時間をかけて取り組むと説明した。だから代表選で菅さんを支持した。それが拙速に案をまとめ、いきなり信を問うなんて話が違う。どうやって地元の支持者、有権者に理解を得ればいいのか」
と恨み言しきりだ。
一方、小沢支持派はマニフェスト回帰を掲げ、河村たかし・名古屋市長の「減税日本」や橋下徹・大阪府知事の「大阪維新の会」など地方政党との連携によって逆風下での生き残りを図る。選挙巧者の小沢氏が仕掛けた戦略である。今年の小沢邸の新年会に参加した木内孝胤・代議士(東京9区)がこういう。
「菅首相はマニフェストの財源がないというが、予算が伴わなくてもやれることはまだたくさんある。なぜ、本気で取り組もうとしないのか。このまま選挙になれば、民主党は分党や新党含みでしょうが、その時は減税日本や維新の会と共闘して『公約は最後まで守る』と訴えて戦うことになる。地元の地方選でも河村市長に応援に入ってもらう予定です」
民主党内では「Bチーム」(※便宜上「マニフェスト修正を唱える執行部派」とする)から「Aチーム」(※便宜上「マニフェスト堅持を主張する小沢支持派」とする)への鞍替えの動きも進んでいる。代表選で菅氏に投票した新党さきがけ出身の高橋昭一・代議士(兵庫4区)が断言した。
「いま選挙をやれば民主党は割れる。もし、菅さんが解散するというなら、マニフェストを守るAチームに加わって分党運動の先頭に立つつもりです」
全国の選挙区事情に詳しい政治ジャーナリスト・野上忠興氏の小選挙区情勢分析では、「増税」路線の執行部派は若手が軒並み討ち死に、菅首相や野田佳彦・財務相をはじめ有力議員まで苦戦という情勢なのに対し、「全滅」と見られていた小沢支持派の若手については、「減税公約を守った河村名古屋市長らの支援を受けて『マニフェストの火を消さない』と訴えていけば苦しい中にも盛り返す可能性は十分にある」(野上氏)と見る。
菅執行部派は、「総選挙になれば小沢チルドレンの大半は落選する。解散が怖いから倒閣運動はできない」とタカをくくって小沢支持派を人事で干しあげ、小沢氏本人への処分など強硬姿勢を取ってきたが、政治の攻守は一夜で変わる。
※週刊ポスト2011年3月11日号