社会学の祖と呼ばれるエミール・デュルケムは、宗教儀礼の特徴をその「集合的沸騰」状態にあると指摘し、儀礼がその集団の連帯を維持・強化する重要な役割を果たしていると記した。歴史の浅い新宗教の儀礼であれば、なおのことだ。創価学会の大文化祭もまさにこれに当たる。慶應義塾大学准教授の樫尾直樹氏が解説する。
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場所は、横浜アリーナ。体の前面は白、背中は赤という体操着を着た青年たちがアリーナ中央に集結し、組体操を披露している。その数、ざっと数百人。
オーケストラの音楽をバックに、3段からなる人間の塔を完成させ、最上段にいる男がジャンプし、空中に舞う。下で男たちがキャッチし、観衆から歓声が上がる。アクロバティックかつ統率の取れたアクションが繰り広げられる度に、赤から白へ、また赤へと体操着を着た群衆の織り成す色が変化していく。
「太陽の仏法に照らされた歓喜のうねりが、幾重にも連なっていく。そして新時代への開幕を告げて今、青年たちは高らかに凱歌の声をあげる」
そうナレーションが入り、“一人の男性”が青年たちに惜しみない拍手を送る。この男性こそ、池田大作・創価学会名誉会長である。これは「創価学会創立60周年記念大文化祭」の模様を記録したビデオテープの映像だ。
創価学会は1930年11月18日に創設された新宗教団体で、現在では信者数・公称827万世帯にのぼる。「創立60周年記念大文化祭」は、その大教団が1990年に開いた信者たちによる一大セレモニーであり、札幌・高松・福岡の各会場に集まった信者に向け、横浜から同時中継された。
創価学会では組織を世代別などに分類している。例えば「青年部(40歳未満の会員)」や「婦人部(既婚または40歳以上の女性)」などのように、いくつかの性別・年齢階梯(かいてい)を設けている。これらの組織に所属する信者たちが、日頃練習を重ねてきたダンスや歌を披露したのだ。
冒頭の組体操は「大文化祭」の終盤の演目だったが、そこに至るまでにも、信者たちによる実に様々な演し物が披露されている。
白いドレスに身を包み、頭上にティアラ風の髪飾りを載せた数十人の若い女性たちによるバレエや、中高生の創作ダンス。幼い子供たちが七色の風船を手に歌いながら踊る演目では、池田氏自らが手でリズムを刻む様子も映し出された。各年代が演目ごとに、真剣な取り組みを見せている。
クライマックスでは、池田氏が立ち上がり、ボタンを押す。それと同時に、アリーナ内に花火が打ち上がり、そこから、会場内の信者たちが右手を勇ましく振りながら教団内での愛唱歌『人間革命の歌』を熱唱歌いながら感極まって涙を流す信者の姿もあり、歌い終わると皆が両手を挙げて沸き立つ。
最後は池田氏の言葉で締めくくられる。
「会社のほうも学校のほうも立派に頑張っていただくことを、私はお願いしたい。これ(大文化祭)は夢みたいなものだから。現実は厳しいから。現実に勝つための文化祭であるということをお願いしたいと思います。今日は本当にありがとうございました」――若い男女が跳びはねて肩を組み、ウェーブが起こり、フィナーレを迎える。
※SAPIO2011年3月9日号