総選挙後の政界は“三国時代”が出現する可能性が高い。事実上の分裂状態で選挙を戦った民主「Bチーム」(※便宜上「マニフェスト修正を唱える執行部派」とする)から「Aチーム」(※便宜上「マニフェスト堅持を主張する小沢支持派」とする)、それに自民党の3大政党による激しい主導権争いが起きるだろう。衆院の勢力だけを見れば、自民を中心に「公明+みんな」が連立を組むか、民主中心に「みんな+減税日本」といった組み合わせで過半数になる。
しかし、いずれの組み合わせも参院で過半数がなく、安定した政権運営はできない。むしろ、注目すべきは民主党の「Aチーム」と「Bチーム」の勢力が選挙後にどうなっているかだ。
本誌シミュレーションでは執行部派で生き残る可能性が有力なのは50議席。一方、民主党では小沢グループに加えて、鳩山グループ、さらに代表選で菅支持に回った議員が多い中間派にもマニフェスト堅持を求める動きが強まっており、「Aチーム」は100議席を超え、130~140議席になる可能性もある。
加えて小沢氏に近い輿石東・参院議員会長が率いる民主党参院議員の大勢もマニフェスト堅持のAチームだ。事実上、民主党の中核を占めるAチームと自民党が、Bチームやみんなの党、減税日本などを巻き込んで互いに連立工作を展開することになりそうだ。
かつて自民党分裂が政界再編につながった1993年の総選挙では、日本新党や新生党など多くの新党が旗揚げし、選挙後は各党入り乱れた連立工作が展開された。その時、小沢氏は自民党を出し抜いて日本新党の細川護熙氏を首相に担ぎ、8党連合の非自民連立政権を発足させた。あの大政変の再現である。全国の選挙区事情に詳しい政治ジャーナリスト・野上忠興氏は選挙後の展開をこう読む。
「選挙後の政権の枠組みは、消費増税を実行するか、増税反対で地方分権を推進するかが対立軸になる。そう見ると、従来とは政党の距離も変わってくる。数の上では自民党と民主B、公明党が連立すれば増税政権の樹立が可能に見えるが、自民党内は増税に慎重なかつての上げ潮派などが議席を回復してくるから、一枚岩ではなくなる。公明党も創価学会の反発を招く増税には簡単には乗れません。池田大作氏の影響力が低下しているだけに、内部の路線対立が深まる可能性もある。
一方、増税反対・地方分権で一致するのは、民主Aとみんなの党、減税日本です。キーマンはやはり、民主Aの中心の小沢氏になる。93年のような複雑な政界連立方程式が解けるのは、今の政界ではやはり小沢氏しかいないのではないか」
すると今回の「細川」は誰なのか。減税日本の河村たかし名古屋市長や大阪維新の会・橋下大阪府知事は往時の細川氏に通じる勢いを感じさせるが、国会議員ではないから首相には就けない。前出の野上氏は、「みんなの党の渡辺喜美代表に白羽の矢が立つ可能性もある」と指摘するが、少数政党の首班では、小沢嫌いの大メディアから「傀儡政権」と批判されて政権不安定になりかねない。
20年近く続いてきた小沢vs反小沢の空虚な戦争に終止符を打つには、いっそ小沢氏が自ら立つのも一案だろう。いずれにせよ、勝負の時は近づいている。
※週刊ポスト2011年3月11日号