生活に困窮した人々に最低限度の生活を保障する生活保護制度は、受給者が2010年11月の段階で142万世帯、197万人にのぼり、支給額は3兆円を突破。いずれも過去最高を記録し、「年越し派遣村」が話題になった2008年12月以降、急増している。
なかでも増加が著しいのは、高齢者、母子家庭、障害者、傷病者のいずれでもない「その他の世帯」。失業するなどして生活保護を受けるようになった若者も、この枠にカウントされることになるわけだ。
生活扶助の基準額は自治体によって異なるが、東京都の場合、標準3人世帯で17万5170円。これに加え、必要に応じて住宅扶助が受けられ、医療費も無料となる。もちろん「働けない」などの理由や事情が必要だが、若者の目に“特権階級”と映るのも不思議はない。
さらに高齢者単身世帯の生活扶助基準額は8万820円で、国民年金の月額6万3000円よりも多い。わずかな年金のなかから住宅費や医療費を捻出しなければならない国民年金受給者と比較すると、年金保険料を払ってこなかった生活保護受給者のほうがずっと優遇されているように見える。
高崎経済大学教授の八木秀次氏がいう。
「国民年金の給付金よりも生活保護による受給額のほうが高い現状はおかしい。“国民年金を納めないほうが得だ”という考えになり、無年金で生活保護を受ける人が増えるのも当然です。また、真面目に働いても正社員でないため低賃金で、生活保護の受給額よりも収入が低いという現象も起きている。これでは“まともに働くより、生活保護を受けるほうがいい生活ができる”ということになり、日本もかつてのイギリスと同じ“英国病”と呼ばれる状態になりかねない。あるいは、一部ではそうなっているのかもしれない」
英国病とは社会保障の充実や基幹産業の国営化により、財政負担が増加し生産効率が低下した1960年代以降のイギリスを、病理的にたとえた言葉だ。
北海道、宮城、東京、神奈川、広島の5都道県では、現実に最低賃金が生活保護受給額を下回っている。八木氏の指摘どおり、これでは「働かないほうが得」。問題視されている不正受給の背景にも、こうした状況があることは否めないのである。
※週刊ポスト2011年3月11日号