医薬品販売を巡る規制は消費者には不便でも、既得権を持つ人々には甘いものになっている。3月からいよいよ政府の「規制仕分け」が始まり、この医薬品販売についても取り上げる見通しだが、果たして蓮舫大臣や仕分け人がどう切り込むのか。行政改革担当大臣の補佐官を務めたこともある、「政策工房」社長の原英史氏は要注目だと言う。
* * *
重大なのは、2006年の薬事法改正(施行は2009年6月から)に伴い、従来認められていたインターネットでの医薬品販売まで禁止されたことだろう。
改正後の薬事法施行規則は、医薬品は薬剤師や登録販売者に「対面で販売させ、又は授与させなければならない」とし、第3類を除いて「郵便等販売」(通信販売のこと)は認めないと規定。一般の風邪薬などはインターネット販売できないことになったのだ。
もっとも、このネット販売規制は、薬事法の条文にはどこにも書いていない。
法律の運用にあたっては、法律(例えば、薬事法)→政令(薬事法施行令)→省令(薬事法施行規則)→さらに通達など、下に行くほどに具体的に定められている。法律は国会審議での可決、政令は閣議決定が必要だが、省令は担当大臣の責任で、通達は役所の局長や課長などの責任で出せるというように、段階が下がるほどチェックが働かずに役人の匙加減で決めることができる。
国会の法案審議では議論もされなかった規制が省令や通達に紛れ込まされているケースは枚挙に暇がない。
では、なぜ、厚労省はそこまでして医薬品販売の規制を残したいのか。そこに出てくるのがギョーカイである。
薬事法改正に至る過程で、「厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会」「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」という有識者会議が開催された。メンバーを見ると、「日本薬剤師会」「全日本薬種商協会(現在は全日本医薬品登録販売者協会)」「日本チェーンドラッグストア協会」「日本置き薬協会」といった新規参入されては困る団体のお歴々が並び、ネット販売の事業者は入っていない。
医薬品のインターネット販売を手掛けるケンコーコムの後藤玄利社長は、「我々はメンバーには入れてもらえないまま、会議の中で『インターネット販売は危険だから禁止すべき』『対面による販売で注意を聞かなければならない』という考えが植え付けられていった。引き合いに出された例が『インターネットでは中国のニセのダイエット薬を販売されていた』などという事例だったが、ニセ薬はネットでなくても違法。冷静に考えたら、インターネットの安全性とは全く関係ない」と語った。
ネットでの医薬販売が危険と言うなら、具体的な被害が出ていたのだろうか。驚くべきことに、2008年9月の規制改革会議タスクフォースの会議でその点を問われた厚労省の担当官は「把握していない」と回答している。当時、規制改革会議メンバーだった福井秀夫・政策研究大学院大学教授は、「厚労省は、社会に平穏に定着していた販売慣行を、客観的データの根拠もなく潰してしまった」と指摘する。既得権益と行政の連携による新参者潰し。医薬品分野だけでなく、あちこちで目にする光景だ。
規制仕分けがこうした問題に根本的に手を打てないのであれば、「おバカ規制につける薬なし」と言われても仕方がない。
※SAPIO2011年3月9日