生物の行動を研究する動物行動学によれば、人間の性行動の多くは動物的本能による行動として説明できるという。その代表格が「不倫」である。以下、動物学行動学研究家の竹内久美子氏の話。
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遺伝的に優れているということは、何もいい大学を出ているとか、よい会社に勤めているなどということとは全然関係ない。動物として遺伝的に優れているというのは、免疫力が高いこと。つまり、バクテリア、ウィルス、寄生虫などの寄生者(パラサイト)に強いということである。
なぜ免疫力なのか、と不思議に思われるだろう。現代人はあまり意識しないかもしれないが、我々は本来、パラサイトだらけの世界に生きており、しかも、生物の二大テーマは生存と繁殖なのだ。生き残るためには免疫力が最大の問題だし、そのために、繁殖の場では免疫力の高い相手を探すのである。
女が浮気でパートナーよりも遺伝的に優れた男を選ぶのも、この免疫力により優れた男を選んでいるにすぎない。浮気で子にヴァリエーションをつけるということも、この話の延長上にある。子が遺伝的に似たり寄ったりだと、ある伝染病が流行ったときはセーフだが、別の伝染病が流行ったときには全滅するかもしれない。けれど、子に遺伝的ヴァリエーションがついていれば、少なくとも全滅は免れるだろうからだ。
しかし……その免疫力の高さをどうやって見抜くのだろう。一見至難の業と思えるこの問題だが、実はとても簡単なことだ。我々が魅力と感ずるもの。そのすべてがその手がかりとなっている。ルックスや声の良さ、スポーツや音楽の能力……。
人間は夫婦やパートナーの関係がありながら、しょっちゅう別行動をとる。だからこそ浮気が介入してくるのだが、それはほ乳類では実は大変異例なことなのだ。 ほ乳類でもし夫婦の関係があるなら、その行動は24時間べったりいっしょだ。そうでないと、メスが他のオスにとられるか、交尾させられてしまうからだ。
我々に近いところでは、ゴリラが一夫多妻のハレム(ハーレム)をつくっている。一頭のリーダーオスが数頭のメスとその子どもたちを従えている。食べるときも寝るときもいっしょ。たまに若いオスがハレムを乗っ取ろうとして、あるいはメスを一頭スカウトしようとしてハレムのリーダーに戦いを挑んでくる。つまりゴリラがあのような大きな体躯を進化させたのはそうした戦いを通じてなのだ。
その点では鳥はとても人間に近い。鳥の九割は一夫一妻制をとっている。鳥には巣づくりと抱卵、子育てという過程があるが、これが曲ものだ。巣材の調達やエサさがしのために夫婦はしょっちゅう別行動をとる。その際、オスもメスも当然のごとく浮気をする。しかもオスはあらゆるチャンスをものにしようとするが、メスは亭主よりいい“男”としか交尾しない(原則通りだ)。こういう過程を経て鳥は(主にオスの方だが)より美しく、より歌がうまいといった魅力を進化させてきたのだ。実際、浮気がよく横行している種ほどオスがメスに比べ、より美しいということがわかっている。
浮気はいけない、という「倫理」は、女に浮気相手としてもらえない、さえない男たちのプロパガンダだというのが私の持論である。
※週刊ポスト2011年3月11日号