東京都知事に立候補を表明した渡辺美樹氏(51)の経歴は華麗である。20代で居酒屋「和民」を創業して一大チェーンに育て上げ、「食」を通じて介護、医療、そして農業にまで多角化させて成功を収めた。さらに、教育に深い憂慮と熱意を示して学校経営を手掛け、政府の教育再生会議委員も務めた。
若くて精力的。背も高くてハンサム。「政治家として最高の素材」(某党選対幹部)という評価も大袈裟ではない。
しかし、自身も出馬会見で述べたように、政治を志す者に必要なのは「ビジョン」だ。都知事選に殴り込みをかけた注目候補の「政治哲学」を訊く。
――教育を実践する立場から、まず今の日本人に何が足りないと思うか聞きたい。
渡辺:日本人は本当の国際人にならなければいけないでしょう。インターネットが国境を越えたというだけでなく、食糧問題、環境問題、もちろん経済もボーダーレスになっている。そういう時代を生きていることの自覚が必要です。
私は、そのためには自分の国を愛することが重要だと思っています。自分の国を愛するからこそ、相手も自分の国が大切なのだろうと尊重できる。そうしてはじめて国際舞台での付き合いが始まります。
世界中の国で、家庭の中でも街中でも、こんなに国旗を見ないのは日本だけです。これは右翼的な発想でいうのではなく、もちろん戦争賛美などではなく、まず国旗を大事にする、自分の国を大事にする、というところから国際性を身につけるべきだと感じます。
――日本人はそんなに国際化していないか。
渡辺:先進国のなかで、日本だけが海外留学生が減っています。国際化に拍車をかけなければ日本が経済で負け組になってしまう時代に、自分の国に閉じこもろうとしている。公約で「高校生の10人に1人を留学させる」と謳ったのは、それくらいの年代から世界と関わる機会が必要だからです。
――それは国際競争に勝てる意欲と野心を持った若者を育てるという意味か。
渡辺:必ずしもそうではありません。私が自分の学校で力を入れたのは、いじめを絶対許さないことです。
教育にも必要条件と十分条件がある。人間として恥ずべき行為はしない、ルールを守るといったことは必要条件であり、まずそこを徹底する。しかしそれでは十分ではなくて、私は一人ひとりが夢を持って実現していく人間に育ってほしいと願っています。必ずしも競争して勝つことが夢ではない。守りに入りたいなら守ってもいいし、偏差値や学力ではない尺度で夢を目指すなら、それを応援したい。東大に行くのも、専門学校に行くのも、それだけで優劣があるわけではない。
だから、私は必ずしも野心を持った人間を育てたいとは考えていません。
――昨年末、石原都庁が提案し、東京都議会で成立した青少年健全育成条例改正案、いわゆる「マンガ規制」では、性描写のあるマンガやアニメの一部が「不健全図書」に指定され、販売規制が行なわれることになった。都は販売棚を分ける区分陳列だと主張するが、事実上、コンビニなどでの販売が不可能になり、表現の自由を侵害すると批判が集まっている。見直すか。
渡辺:表現の自由と、私たちの宝である子供たちを守る、見せてはいけない規制というのは両立します。条文についてはよく勉強します。
※週刊ポスト2011年3月11日号