『いのちの食卓』(マガジンハウス)、『辰巳芳子の旬を味わう』(NHK出版)などの著者で、各地で「スープの会」や料理教室を主宰する料理研究家の辰巳芳子さん(86)。そんな彼女がスープの基礎から応用まで説いたのが『辰巳芳子 スープの手ほどき』(文藝春秋刊)シリーズだ。
この本の中で紹介されているスープはどれも、“手”のぬくもりと優しさが込められている。まず、手間を惜しまない。たとえば、和のスープ、つまり汁物に欠かせないだしをひく煮干しの頭と身は別々に分けて炒り、粉にして使い、肉や魚は必ず最初に湯引き、料理によっては野菜も湯引くようにと紹介している。
それが面倒くさい、時間がなくてできないという人を、辰巳さんはたしなめる。
「基本的な調理機能が低下しているから、毎日毎日その都度料理しなくてはならず、ああ大変!となってしまうんですよ。昆布とかつおぶしのだしも、1週間分を時間のあるときにまとめてひいて、一番だし、二番だし、さらには二杯酢、三杯酢、八方汁まで作っておくんです。そしたら、残りの6日間はそのだしを使って、おみそ汁もおすましも酢の物でも、簡単にできるじゃありませんか。
じゃがいも、にんじん、里いも、どれもまとめて蒸しておいて、必要なとき二番だしとさっと合わせれば、すぐにもみそ汁ができますよ。わかめなら一度にたっぷり戻して切り、ラップでのり巻きのように巻いて冷凍しておく。これなら入り用にあわせ必要量を切り、お豆腐と合わせてすぐにみそ汁にもなるし、酢の物もできます。要は頭の使い方で、私が常にいっているのも、こうした先取り感覚なんです」
葉物ならひと束を買ってきたその場で、葉と軸に分けてゆで、すぐに食べる分は二番だしを調味したものに浸けておき、残りは小分けして冷凍する。食卓にのせるとき、だしに浸けておいた分は軽くしぼって、あらためてだしをかければ、本格的なおひたしになる。
「丁寧な下ごしらえが、本当のおいしさをもたらし、材料を無駄なく使い切ることにもなるんです」
けんちん汁のような汁物は、一度にたくさん作る家庭が多いが、余った具と汁を分けて保存するよう、辰巳さんはすすめている。
「別々に保存するほうが、味がくずれず、おいしさが長持ちします。みそ汁だって一度に何日分を作ってもいいんです。余ったら具と汁を分けてとっておき、食べるときに合わせると、いつでもおいしくいただけます」
こうした手間のかけ方は、食材への愛情であり、食べる人への愛情にほかならない。
「料理は愛情です。そして、この愛は好きとか嫌いとかいう次元のものではありませんよ。常に具体的に油断なく育てていかないとしおれてしまうものなんです」
『辰巳芳子 スープの手ほどき 和の部 洋の部』 各1200円 ともに文藝春秋
※女性セブン2011年3月17日号