宗教と政治のかかわりが如実に表われるのが選挙だろう。4月の統一地方選に公明党の支持母体である創価学会はどのように臨もうとしているのか、ジャーナリストの竹中英二氏がレポートする。
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学会選挙の特徴は、「完全勝利」を目標に掲げ、それを実現させてきたことだ。 過去2回の統一地方選は全国に1700人以上の候補者を擁立し、全員当選させた。
この「1人も落選させない」ことがいかに重要かを物語る出来事が前回(2007年)の統一地方選の投開票日に起きた。
その日、公明党本部の選対本部に詰めて開票状況を見守っていた太田昭宏・代表(当時)は、深夜、ほぼ全部の選挙区で当選が確実となると、安心して党本部から帰宅の途についた。
ところが、そこに一報が飛び込んだ。北海道美瑛町議選で、公明党候補と共産党候補が最下位で同じ得票(400票)となったのである。同数の場合、公選法の規定に基づいてクジで当選者を決める。
太田氏ら党幹部たちは慌てて党本部に引き返した。結果は公明党候補が当選のくじを引き当て、公明党・学会は無事「完勝」をアピールしたが、党首が町議選のくじ引きに一喜一憂するのはこの党ならではだ。
なぜ、「全員当選」がそれほど重要なのか。
公明党の政審会長や副委員長を歴任し、衆院議員を10期務めた二見伸明・元運輸相は「選挙と信仰」の関係をこう指摘する。
「選挙活動は学会員の信仰心が問われる。とくに統一地方選は全国一斉に行なわれ、各地域の学会員たちは1票でも多く取ろうと顔見知りの議員の応援に力を入れる。候補者全員を当選させることで学会員は歓喜し、宗教的一体感を味わうわけです。この組織全体が勝利を味わうところに地方選の重要な目的がある。
信仰の成果がかかっているから負けさせるわけにはいかない。創価学会の基礎票はしっかりしており、中選挙区制や大選挙区制の地方議会選挙はどのように票を振り分ければ何人当選できるかを計算できる。各地区の責任者が事前に綿密に分析し、候補者を絞り込んで勝てる態勢を組んで戦う。万が一、落選者が出るとその候補を応援した会員に不満が残り、組織的にもマイナスが大きい。選挙リーダーの責任問題になります」
日蓮正宗の信徒団体からスタートした創価学会は、かつて本山の大石寺への集団参拝などが重要な宗教行事だった。しかし、宗門と絶縁して以来、組織として「宗教的一体感」を感じるイベントは少ない。それだけに、学会員にとって選挙活動は「信仰心が試される重要な疑似宗教儀式」(東京の古参会員)にもなっている。
今回の統一地方選も、手堅く票読みが行なわれ、「完勝」へ綿密な計画が練られると思われる。
※SAPIO2011年3月9日号