技術・情報が生命線の軍事産業。中国はこの分野でも貪欲に最新技術を盗みにくる。世界中で跋扈(ばっこ)する軍事産業スパイの実態をジャーナリストの井上和彦氏が報告する。
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世界を驚かせた中国のステルス戦闘機「殲20」。そのデビューはあまりにも衝撃的だった。 だがその直後、「殲20」には、1980年代に登場した米空軍のステルス攻撃機F117「ナイトホーク」の技術が盗用されている疑いがあると報じられたのだ。これまた衝撃的なニュースだった。
AP通信によれば、1999年のコソボ紛争の際、セルビア軍の対空砲火によって撃墜された米空軍のF117の残骸を、中国人工作員が墜落現場周辺の民家を回って買い集め、その残骸から得られた様々な技術データを「殲20」の開発に流用したという。
パクリが十八番の中国でも、そもそも真似る対象が入手できなくては、盗用は困難だ。
現在、アメリカやEU諸国は中国への武器輸出を禁じているため、中国は購入して技術を盗むことができない。そこで撃墜された機体の残骸を買い漁るという前代未聞の手段を使ったとしても不思議ではない。また、同じ事情から、世界各地の展示会でも技術情報の収集を行なっている。
欧州各地で頻繁に開催される各種兵器の展示会は、各国の兵器メーカーが最新兵器を出展するため、決まって大量の中国人調査団が送り込まれている。彼らは、4人単位で行動するが、3名の男性と1名の女性であることが多い。いずれのチームも、女性は通訳と思われる。
彼らは、世界各国の兵器メーカーのカタログをかき集め、展示された最新兵器を穴があくほど覗き込む。そして細部をデジカメで接写し、あらゆる角度から写真を撮りまくる。こうした露骨な行為に対し、出展者は警戒を強めている。
筆者の知人で欧州の兵器メーカーの担当者などは、「情報収集のためにやってくる中国人は、展示されている兵器の写真を撮り、何の遠慮もなく技術的な質問をしてくる。だから絶対に車両の内部を撮影されないよう気をつけている」と語っている。
事実、彼は、筆者には戦闘車両についてこと細かに説明してくれたのに、続いて中国人調査チームがやってくると、たちまち車両の後部ドアを閉めて、彼らの質問には「答えられない!」と一蹴した。
このように衆人環視でも、堂々と情報収集するのは日常茶飯事だ。片っ端から情報収集するため、それが何を目的としているか判然としないこともあり、より不気味である。
一昨年の富士総合火力演習で、中国人民解放軍の武官団の一人が、雛壇の下から望遠レンズ付きのカメラで、一般人招待者の顔を撮影し始めた。引率の防衛省関係者がそれを制止すると、なんと雛壇から降りてグラウンドからまた同じように撮影を繰り返した。装備品ではなく、一般人招待者の顔を撮影していたこの軍人は、いったい何をスパイしていたのかいまだに不明だ。
※SAPIO2011年3月9日号