銀行には明るい春だ。
メガバンク3行の今年3月期決算の予想は、三井住友フィナンシャルグループが純利益5400億円、みずほフィナンシャルグループが純利益5000億円、三菱UFJフィナンシャル・グループも純利益5000億円と、目を見張る好業績である(合計1.54兆円)。一方で、銀行が集めた預金を、どれだけ企業などに貸しているかを示す「預貸率(よたいりつ)」の推移を見ると10年前には90%超だったものが現在では70%強にまで下がっている。
では、貸さない銀行がどうやって巨額の利益をあげているかというと、馬鹿馬鹿しいほど単純である。メガバンクなら、普通預金で0.02%程度の“タダ同然”の金利で国民のカネを100兆円規模で集め、その約2~4割を投じて国債をせっせと買い集めているのである。
銀行業界全体では、国債保有額は150兆円近くに及んでいる。10年物新発国債の利回り約1.2%から推計すれば、この国債投資だけで、業界全体で年間ざっと1.8兆円も稼ぐわけだ。全国119行の昨年9月の中間純利益の総額が1.6兆円だから、いかに「利息はなし、集めたカネは国債へ」という商売がオイシイかわかる。
そう批判されると、銀行員たちは必ず2つの言い訳を繰り出す。「BIS規制」と「金融検査マニュアル」があるから貸したくても貸せない、というのである。
順番に説明しよう。
BIS規制とは、銀行の健全性をはかる国際基準で、各国の金融当局で構成されるバーゼル銀行監督委員会が定めている。銀行の健全性を示す指標としてよく耳にする「自己資本比率」も、この基準によって最低ラインが決められている。
昨年9月、その基準が一段と強化されることが決まり、新基準は2年後の2013年から適用される予定のため、各行はこれまで以上に自己資本を強化する必要に迫られているというわけだ。
一方、金融検査マニュアルは日本の金融庁が定めたもので、融資できる企業の条件を細かく規定している。銀行がこれに反して融資をすると、彼らが「鬼より怖い」と恐れる金融検査で「これは不良債権だろう」と査定されるのである。
細かい仕組みは省くが、この2つの規制を守るため、銀行は「融資=危険な資産」を圧縮し、「国債=安全な資産」を増やしているだけだと主張するのである。
本末転倒も甚だしい。これらの規制は、銀行が健全に営業し、社会機能を果たすために作られたものだ。それを根拠に社会的責任を放棄し、自らのカネ儲けに邁進するなら、それこそ銀行不要論が出てくる。
元銀行員でもある和光大学の三宅輝幸・名誉教授は銀行の能力低下を嘆く。
「BIS規制や金融検査マニュアルによって銀行が融資に消極的になっていることは確かですが、だから貸せないというのはバンカーとして能力が低いことを告白しているようなものです。
歴史的に日本の銀行は土地神話に基づいて融資を行なってきた。不動産の目利きはできるが、会社の将来性や事業の収益性を見抜く技術がない。だから貸せない。検査マニュアルでも、中小企業には個別の事情を踏まえて融資できることになっている。現場で貸せるという確信があるなら貸せばいいのです。
ところが現実には、支店の現場で判断して融資することは全くできなくなっています。以前はいた支店の融資担当者すら今はいない。すべて本部がマニュアルに従って融資の可否を判断するからです。
また、経営陣に経済動向を読む力、それに基づいてビジョンを打ち出す覚悟が欠けていますね。トップが経営戦略を持ち、例えばITベンチャーに力を入れろとか、これからは介護業界にもっと貸せ、などと号令すれば現場は動くはず。
どの銀行も同じ制度に従って機械的に融資する、しないを決めているようでは、とても経済大国の金融機関とはいえません」
担保があるから貸す、というだけなら質屋金融だ。しかも質屋は担保(質草)の価値を判断するプロの目を持っているだけ、銀行員よりはるかに優秀である。
※週刊ポスト2011年3月18日号